第686話カフェ・ルミエール楽団冬のコンサート(8)

カフェ・ルミエール楽団冬のコンサートのメイン曲のブラームス交響曲第四番もフィナーレに近づいている。

史は、「そろそろいかないと」とポツリ。

そして、奈津美に「お饅頭ありがとう、生き返りました」、里奈には「お茶が美味しかった」、美幸には「縫物ありがとうございました」と、頭を下げ立ち上がる。


由紀は、「私には?」と言いたかったけれど、ただ史の楽屋に来て、小麦まんじゅうと緑茶を飲んだだけなので、どうにも文句が言えそうにない。

それでも、「アンコールは何なの?」と声をかける。


史は、面倒そうな顔と声。

「言ってもわからないよ、姉貴の知らない曲」

そして、そのまま楽屋を出ていってしまった。


里奈は頭を抱え、奈津美と美幸はクスクス。

由紀は、ムッとしている。


さて、史がステージ袖口に戻ると、ブラームス交響曲第四番はフィナーレを迎えた。

史は指揮者榊原氏の圧倒的な演奏に感激。

「すっごいなあ、一度は振ってみたいなあ」

「でも、今はアンコールに集中しないと」

と、再び気を引き締める。


ブラームス交響曲第四番が壮大な盛り上がりの中、終わった。

指揮者の榊原氏と楽団が、ホール全体から、ものすごい拍手を受けている。


アンコールの声も出始めている。

指揮者の榊原氏が、舞台袖口から、裏に戻って来た。

史を手招きする。

史「素晴らしい演奏でした」

榊原「ああ、ありがとう、面白かった」

史「そろそろ、アンコールに?」

榊原「うん、じゃあ、出よう」


凄まじいアンコールの声と拍手に包まれ、指揮者の榊原と史が、ステージに登場。

その史が弾きだしたのは、ピアノ独奏曲の、ブラームスの「6つの小品」からの「間奏曲Op.118-2」。


甘くて切ない、美しいメロディーが、ホール全体に響き渡る。


大旦那

「ああ・・・きれいな・・・しみじみとしたいい曲だ」

奥様

「ほんと・・・史君そのものの演奏ですねえ」

内田先生

「さすがねえ、交響曲第四番の雰囲気を一気に変えてしまった」


・・・・・様々、聴き入ってしまう中で、舞台袖口にいる由紀は、複雑。

「確かに、知らない曲で、演奏もいい」

「でもさ、史は私に冷たい、さっきの態度が気に入らない」

里奈が、そんなブツブツを言う由紀にハラハラしていると、史の演奏は終わり、また、もの凄い拍手を受けている。


そして、またしても、アンコールの声が鳴りやまない。



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