第679話カフェ・ルミエール楽団冬のコンサート(1)

カフェ・ルミエール楽団の冬のコンサートの当日になった。

史がワインレッドのスーツに着替えてリビングに降りると、由紀がさっそく世話を焼く。

「史!ちょっと来なさい!」

史は、面倒そうな顔。

「何?どうせろくでもないことでしょ?」

由紀は、そんなことでは引かない。

「いいから、さっさと!」

史が仕方なく由紀の前に行くと、その手が上にあがる。

史は「またポカリ?」と思うので、また後ろに下がる。

ただ、由紀は強引をもってなる姉。

「ポカリじゃないの、可愛いから頭をなでなでする」

もう、無理やり史の頭をなでてしまう。


史は呆れた。

「あのさ、姉貴は大学一年生で、僕は高校三年生なの、姉貴、大丈夫?」

しかし、由紀はフフンと笑う。

「だって史のスーツ姿って、七五三みたいなんだもの、まるでガキンチョ」

まったく引くソブリはない。


さて、そんな「一悶着?」があったものの、それを見ていた母美智子は、冷静。

「まあ、いくつになっても、由紀にとって史は可愛い弟のまま」

「でも、それより何より」と史に声をかける。


「史、体調はどうなの?」

「風邪はなおったと思うけれど」


史は、話をする相手が由紀から変わってほっとしたようだ。

「うん、大丈夫だよ、かなり楽」

「普通に弾けると思う」


父晃も顔を見せた。

「史はソリストだから、これ以上は、そっとしておきなさい」

「余計なことで気を使わせないように」


史は、その言葉が本当にうれしいようだ。

「父さん、助かる」


玄関のチャイムが鳴った。

そしてインタフォンから

「里奈です、おはようございます」


史は小走りに玄関を開けた。

「ああ、ありがとう、里奈ちゃん、寒いからあがって」


由紀も、里奈が見たかったようで、玄関に出てきた。

そして、また大騒ぎ。

「あらーーー!里奈ちゃん、きれいなスーツ!ワインレッドで!」

「史とおそろい?」


里奈は、顔を赤らめている。

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