第678話カフェ・ルミエール文化講座の新しい構想(3)

田中亜美が、ワゴンに乗せて運んできた香料は、沈香、白檀、伽羅、乳香、没薬などをエッセンシャルオイルにしたものと、固形の樟脳と薄荷だった。


亜美は説明をはじめた。

「皆さまには全く持って、僭越な話になると思うのですが、日本を代表する二大香料としては、樟脳と薄荷になります」

「どちらも海外にまで輸出したものでありますが、まず樟脳については楠木、その木の枝や葉に樟脳の香りがあります」

「樟脳の主成分はカンファーで、防虫剤や医薬品、家具や木工品にも使われます」

「原産地としては、主に九州」

などなど亜美が説明をしている間、道彦が樟脳を理事たちに回す。


大旦那

「箪笥に入っていて懐かしい香り、防虫剤って教わったな」

「着物に香りがついていることもあった、慣れると気にならない」

ルクレツィア

「独特の香りね、面白い」


亜美は、次に薄荷の説明。

「薄荷は皆さまご存知すぎるくらいと思います」

「北見薄荷で有名なように、北海道の北見地方が主産地」

「尚、薄荷という名前は、荷物が軽いという意味もあるとのこと」

「北海道に野菜などの重い農産物に比べて、軽い荷物で、莫大な収益をあげたという話もあります」


大旦那、晃、マスター、ルクレツィアは、フンフンと香りをかいでいる。


亜美は他の香料も回しながら、説明を続ける。

「香りは、忙しい生活に潤いを与えるとともに、やすらぎを感じさせ、楽しませてくれます」

「例えば、ハーブ類、薄荷、紫蘇類には特有な香りがあり、金モクセイや薔薇の香りなど、身近にも素晴らしい香りの植物が多くあります」

「それらの香りは、どのようなものなのか、香りにはどのような種類があるものなのかの講義」

「香料や香水の歴史、用途と種類の講義」

「フレーバーとはどのようなものなのか、フレーバーを使用することの意義」

「香料を入れたジュースと、入れないジュースを実際に作って飲んでもらうとか、オイルを調合して、自分なりのオイルを作ってもらうとか、そのような講義を考えています」


大旦那は、途中からニコニコ。

「そうかあ、実験もあるのか、そういう理系のような講義も面白い」

マスターは興味深い顔。

「自分専用のオイルねえ・・・」

晃も笑っている。

「香りの調合は、源氏にもあるよね、お屋敷から先生を呼ぼうか?」

ルクレツィアは、目が輝いている。

「フィレンツェから香料を取り寄せるかな」


大旦那の意思としては、この講座も決定したようだ。

「面白い、これは参加する、講師をしてもいい」

他の理事も、全員承諾。


かくして、事務局提案の三講座は、全て承認となった。


大旦那は、うれしくて仕方がない様子。

「どれもこれも、目が開かれるような講座」

「私自身が受けたいような気がしてきた」


マスターが、大旦那に声をかけた。

「特に香り講座は、奥様を誘ったほうがいいのでは?」


「そうだね、変な虫がつかないようにね」


華蓮がそこで笑った。

「大旦那が、樟脳まみれになるとか?」


会議室全体が、笑いに包まれている。




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