第640話洋子と史のベルギー料理店デート(1)

洋子と史は、かねてから約束だったベルギーレストランで食事をしている。

洋子は、史を独占出来て、うれしくて仕方がないものの、ホッとした思いもある。

「大変だった、あの子たちの表情・・・」

あの子たちの表情とは、奈津美、結衣、彩の「やっかみ顔」。

直接「この日」と気取られてしまえば、どんなに文句を言われるか、わからない。

そのため、史に連絡するのも、家に帰ってからラインにて。

本当にカフェ・ルミエールでの仕事中は、言葉にも表情にも出さなかった。

「だから、あの子たちには、お土産も買って帰らない」

「その後に文句を言われるのも面倒」


さて、洋子の思いなど、史には全く頓着はない。

出された以下の珍しいベルギー料理を美味しそうに食べている。


「ムール貝の白ワイン蒸しとガーリックトースト」

「リエージュ風温製サラダ 」

「牛ホホ肉のベルギービール煮込み 」

「シコンのハム巻きクリームグラタン 」


史はムール貝を食べ、

「ムール貝の白ワイン蒸しとガーリックトーストって、絶妙ですね」

洋子は、ウンウンと頷き

「赤ワイン蒸し、田舎風煮込み、クリーム風味、トマトクリーム風味、サフランクリーム風味、エスカルゴバター風味、白ビール風味もできるよ、バリエーションが多い」

と説明をする。

史はうれしそう。

「へえ・・・面白いなあ・・・マスターに言うかな」

しかし、洋子は、しっかり釘を刺す。

「マスターだけに限定してね、他のメンバーには内緒」

史は「え?」と意味不明になるけれど、次の皿「リエージュ風温製サラダ 」が運ばれてきた。


洋子は史の意味不明を打ち消すように話題を変える。

「これはベルギーのワロン地方・リエージュ州の家庭料理だよ、熱々のジャガイモ、インゲン、ベーコンに特製のヴィネグレットソースがかけるの」

史「すごいなあ、量もある」

食欲があるらしい、どんどんと食べていく。


次の料理は、「牛ホホ肉のベルギービール煮込み 」

史は、これも美味しそうに食べる。

「やわらかくて、コクがあって美味しい」

洋子の食べるスピードも増した。

「ベルギービールを贅沢に使って、ホホ肉をじっくりと煮込むの」

「これも、ベルギーの名物だよ」


食事メニューの最後は、「シコンのハム巻きクリームグラタン 」

洋子がまた説明。

「ベルギーではね、お祖母さんの懐かしい味って言われているの」

「古くからある料理だよ」

史は、目を閉じて味わう。

「そうですね、少し苦めのチコリーと生ハムの相性が美味しい」

「それと、トロトロのチーズも美味しい、これもベルギー産かなあ」



さて、食事の後は、デザートになる。

史は「ダム ブランシュ 」という、バニラアイスに生クリームと、温めたチョコレートソースをたっぷりとかけたもの。

洋子は、「ブリュッセル風 ワッフル 」という、サクサクとしたワッフルにバニラアイスと、しっかりとしたベルギーチョコレートのソースをかけたもの。


史はこれも美味しそうに食べる。

「バニラアイスに温かいチョコレートソースなんて、思いつかなかった」


洋子は真面目な顔で

「私は、少しサクサク感が欲しかったからワッフルを選んだけれど」

とまで言って、史に

「ねえ、史君、半分欲しい」

とおねだりをする。

ただ、少し恥ずかしそうな雰囲気もある。


しかし、史は、ここでも冷静。

「はい、半分食べたら、洋子さん、交換しましょう」

全く、恥ずかしがる雰囲気はない。


洋子はここで思った。

「もしかして、彼女とは思われていないのかもしれない」

「・・・もしかして・・・でも、ないのかもしれない」


そんな洋子を突然、史がじっと見つめた。

「え?史君?何?」

洋子は、ドキドキ感が強くなっている。

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