第641話洋子と史のベルギー料理店デート(2)
史は洋子をじっと見つめ、話しだす。
「新作メニューの参考になりますね、ここのデザートって」
洋子は、ホッとしたけれど、ちょっと残念。
「洋子さん、素敵です」とでも言われれば、「天にも昇る気分」になるけれど、史の出した言葉は、至極当たり前のもの。
洋子も
「そうねえ、チョコレートねえ・・・仕入れを変えるかなあ」
と、ほぼ「仕事」に直結した答えになる。
ただ、史はまだ洋子の顔を見ている。
そして洋子は、またドキドキする。
史は、ニコッと笑う。
「洋子さんと、こうしているの好きなんです」
洋子は、ますます慌てた。
うれしいけれど、慌てた。
「え?何?史君・・・もう、かなり年上だよ・・・え?」
洋子は、自分で何を言っているのか、わからなくなった。
史は、また笑う。
「だって、姉貴だと文句ばかり言うし」
「華蓮ちゃんは、時々、突っ込んでくるんです、もっと食べろとか」
「洋子さんって、大人の女性で、余計なことを言わなくて、いろいろ教えてくれるから、安心していられるんです」
洋子は、史の言葉がうれしかった。
「はぁ・・・いいなあ・・・何か、やさしい雰囲気」
「こんな年上でもいいのかな・・・」
それでも、少し冷静に戻る。
「でも、史君には里奈ちゃんがいるしなあ・・・」
「私は、彼女とか恋愛対象ではないのかな・・・当たり前か」
洋子も言葉を返す。
「うん、私も史君と、こうしているのが好きだよ」
「味がわかるし、センスがいいし」
本当は「素敵です」とかと言ってもらいたいけれど、普通に返した。
史は、そんな洋子の瞳をじっと見る。
「洋子さん、僕もお願いです」
「姉貴には内緒にしていますので」
洋子は、史がそれを言うことはわかっていた。
「うん、内緒だよ、またポカリされても可哀そうだし」
ただ、洋子にも、由紀には知られたくなかった理由があった。
それは由紀に知られれば、必ずカフェ・ルミエールの女子たちに情報が伝わる。
そして、結果として、洋子が「ヤッカミ」を受けることは必定なのである。
史は、本当にうれしそうに笑う。
「洋子さん、ありがとう!助かります」
洋子も、ニッコリと史に答えた。
「由紀ちゃんと、カフェ・ルミエールの女子たちには秘密にしよう」
史は、また笑う。
「二人で秘密を持ってしまいましたね」
洋子は、うれしくて仕方がない。
「えへへ、これで史君とは、秘密の関係」
そのまま、史の手を握ってしまった。
すると史はまた「え?」という顔。
洋子は、「秘密の関係、秘密の関係」の言葉が心中繰り返し、真っ赤になっている。
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