第621話由紀と史のデート?(10)

ルクレツィアにお礼を言って、東京駅至近のフィレンツェ料理店を出た由紀は、エレベータの中で、スマホの着信履歴を確認する。

「ああ、あの例の懐石料理店からだよ、何回も入っている」

「心配して、私のスマホにかけたんだけど、出なかったから、家にかけたんだね」


史は、「どうでもいい」と、全く気にしていない。

「二度と行くこともないし、顔も見たくない」

「あの人とか、店がどうなろうと、関係ない」


その史のスマホに清からコールが入った。

「史お坊ちゃま、急な話で申し訳ありませんが、由紀お嬢様と、大旦那のお屋敷に来れないでしょうか」

史は、特に予定はないけれど、一応由紀にも聞く。

「ねえ、姉貴、清さんが大旦那のお屋敷に一緒に来てって言っている」


由紀は、嫌とは言えない。

「うん、わかった、確かに予定はない」

「心配かけて申し訳ないことしちゃった・・・って・・・悪いことはしていないんだけど」


史と由紀は、清に「OK」の返事をした。

そして、メトロに乗り、大旦那のお屋敷に向かうことになった。


由紀はメトロの中で、ため息をつく。

「何か、面倒なことになったね」

史も、そんな感じ。

「いろいろ聞かれそう」

由紀

「でもさ、悪いことはしていないと思うよ」

「それはそうだけど、結果がこうなった」


しばらく沈黙の後、由紀は史に珍しいことを言う。

「史がいて助かった」


史は、意味不明。

「え?しっかり言って、わかんない」

由紀

「史がルクレツィアさんを知っていたから、ルクレツィアさんの力で、いろいろ進んだ」

史は首を横に振る。

「そんなの偶然だよ、たまたま、そうなっただけ」

「姉貴に、そんなこと言われると、すごく変」


由紀は、史の反応が気に入らない。

「私だって、怒っているばかりではないの」

「評価すべきところは、しっかり評価するの」

「それを何?変って何なの?」


史は、少し笑う。

「姉貴は、怒っている方が姉貴らしい」

「子供の頃からずっと、そんな感じ」


由紀は、ますます気に入らない。

「あーーー!そんなことを理由にして、華蓮ちゃんとか加奈子ちゃんと、仲良かったの?」

「おまけに愛華ちゃんは、しっかり覚えていないしさ」


史は、また笑う。

「ねえ、次で降りるの、そろそろ着く」


由紀は、少し怒った。

「どうして肝心な話を避けるの?」

「ねえ、史!」


しかし、由紀の怒りは史には届かなかった。

メトロは停車し、史はどんどんホームに歩いていく。

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