第615話由紀と史のデート?(4)

由紀も史も、正式に予約が成立していた懐石料理店なのに、その支配人にそこまで言われては仕方がない。

そもそも、そこで食べる気も失せてしまった。

由紀

「わかりました、それでは」

と、支配人に背を向け、史とその懐石料理店を出た。


その背中越しに、支配人の

「ああ!気分が悪い!ガキなんぞに来られて!」

「塩でもまいておけ!あのガキにぶっかけてもいい!」

そんな声も聞こえて来る。


エレベーター前に到着して下りのボタンを史が押し、由紀に話しかけた。

「姉貴、そもそもここで食べる必要ない、料理にも客にも失礼過ぎる」

由紀も、頷く。

「本当に気に入らない、絶対仕返しする」

史は冷静。

「しっかり、最後の塩まきと、塩をぶつけるまで録音した」

由紀

「料理を出す店として、最低のことがわかっていないし、そもそも人として低劣」


由紀と史がそんな話をしていると、エレベーターが到着した。

そして、何人か出てきた。

どうやら外国人が数人、それも全員が、かなり上質なスーツを着ている。


由紀が、キョトンとしていると、その中の一人の女性が大きな声を出し、史の前に。

「あらーーー!まさか、史君じゃない!」

「ねえみんな!これが噂の史君!あの大旦那のお孫さん!」

「今度、フィレンツェを案内するって約束しているの!」

そして、史が応える前に、思いっきりハグをしてしまう。


由紀は、ますます目を丸くした。

そして思い出した。

「あーーー!この超豊満、スタイル抜群の女性が、かのメディチ家の末裔のルクレツィアさん?」

「この前の、カフェ・ルミエール文化講座開講記念式典で見たなあ」

「一番たくさん食べていた女性かもしれない」


そこまで思い出して、ルクレツィアの豊満な胸に顔を包まれ、苦しそうな史を見る。

「ルクレツィアさんの体格はすごいし、腕も太い」

「あのままでいると、ひ弱な史の背骨が折れる」


ルクレツィアはしばらく史をハグして気が済んだのか、史を解放。

今度は、いきなり由紀を思いっきりハグしてきた。

「あらーーー!あなたがお姉さんの由紀ちゃん?」

「もうね、パテシィエの洋子さんから、いろいろお話聞いています!」

「可愛いわあ・・・史君も美形だけど、お姉さんも負けず劣らず!」

「ねえ、一緒にフィレンツェにお出でなさいよ!」

「いい男紹介するわよ!」

ルクレツィアの言葉と抱きしめる力は、強い。

抱きしめられる由紀も、かなり息が苦しい。


そんな由紀の様子を史は、心配した。

そしてルクレツィアに声をかけた。

「ルクレツィアさんは、ここに何か?」

つまり話題転換を試みたのである。


ルクレツィアは、その史の話題転換に、すぐに乗った。

きつく抱きしめていた由紀を、あっさり解放して

「そうなの、そこの懐石料理の店の支配人からご招待があってね」

「ここは初めて入るんだけど」

とまで話して、おそらく一緒に連れてきたのだろうか、その人たちを紹介する。

「この人たちは、イタリアの旅行会社の人たち、日本料理店の記事を書いてもらおうと思ってね、支配人もそれが狙いかな」

と、ストレートな説明をしてくる。

そして、由紀と史の顔を見て

「ところで、お二人は?」

と聞いてくるので、史は正直に答えた。


「あの、正式にインタネットで予約したんですが、店に入ったら子供だから帰れって追い出されてしまいました」

「おまけに、塩をまかれて、ぶつけられそうに」


ルクレツィアの笑顔は、史の言葉で一変してしまった。







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