第609話横柄な客(1)

午後9時、カフェ・ルミエールに三人の中年男性客が来店した。

スーツのバッジを見ると、誰でも知っている超一流商社のもの。

美幸が、四人掛けの席に誘導すると、その中の一人。

「おい!さっさとメニューを持ってこい」

「いい加減な酒を出したら承知しないぞ」

といきなりの強い口調。


美幸が丁寧に

「承知いたしました、ただいまお持ちいたします」

と頭を下げると、またもう一人の男性客

「おい、姉ちゃんが座って接客してくれるんだろうなあ」

「嫌とは言わせねえぞ」

と、今度も脅迫気味の口調。


美幸は、少し呆れたけれど、キッパリと拒絶した。

「いえ、当店では、そのような接客は行っておりません」

「まずは、メニューをお持ちいたします」

と、再び頭を下げ、マスターのいるカウンターに戻る。


その美幸の背中越しに、三人目の男性客から声がかかった。

「いけすかない女だなあ!接客のイロハがわかっていない!」

「これは、メニューを持ってきたら厳しく指導だなあ」

その言葉で、連れの男性客が手を叩いて笑っている。


さて、カウンターに戻った美幸に、マスターが声をかけた。

「ああ、いいよ、美幸ちゃん、俺が何とかする」

マスターも、その三人の男性客と美幸の様子を、しっかりと見ていたらしい。


美幸は、ホッとしたと同時に、申し訳ない表情。

「すみません、あういうタイプのお客様は・・・」


マスターは、少し笑い

「まあ、大企業のバッジをつけていれば、自分が偉いと思っている典型的なパターン。上にはペコペコ、下と思う相手には徹底的に横柄な態度」

と、メニューを持ち、その男性客三人の席に向けて歩きだした。


他の来店客も、美幸と三人の客との一件を聞き取っていたらしい。

少しずつ、カウンター前に集まってきている。





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