第600話カフェ・ルミエール文化講座開講記念コンサート(4)

華蓮がアナウンスした、由紀と史の曲は、ジャズバラードの名曲「Bewitched」。

史の静かで繊細な前奏に続いて、由紀が歌いだすと、聴衆全員の顔がなごんだ。


「最後にこんなロマンチックな曲・・・」

「夢見がちなメロディがいいな」

「史君のピアノも由紀ちゃんのヴォーカルもぴったり合って」

「ほろっとしちゃうな」


大旦那も満足そうな顔。

「そうだなあ、ジャズもいいなあ」

奥様も目を閉じて聴き入る。

「キラキラしていて、シックで・・・」


道彦は、また目を丸くした。

「完璧以上だなあ、こんどジャズセッションを史君と由紀ちゃんとしたい」

亜美はうっとり。

「ほんと、上質なラウンジにいるみたい、安心感たっぷり」

里奈はホッとした顔。

「なんだかんだ文句言い合うけれど、心は通じているんだよ、あの二人」


料理の準備ができたのか、マスターと洋子も聴きに来ている。

マスター

「あれやるんだったら、俺もギター弾きたかった」

洋子

「もしかして、マスターが仕込んだ曲?」

マスターは、ニヤッと笑っている。


父晃もステージ袖口に来た。

「じゃあ、記念パーティーの余興でやろうか?」

ニコニコ笑っている。


さて、そんな話の中、史と由紀は曲を終えた。

そして聴衆全員からのスタンディングオベーションを受けて、二人そろってキチンと頭を下げる。


華蓮は、その二人の様子が面白い。

「あの下げ方、全く一緒、子供の頃から同じ」

ただ、笑ってばかりではいられない。

止まないアンコールの声を止めなければならない。


華蓮は客席にしっかりとアナウンス。

「皆さま、アンコールのお声、本当にありがとうございます」

「しかし、この後の予定がございます」

「すでに三階の大広間には、このカフェ・ルミエールが心を尽くした様々な料理が準備されております」

「それぞれの指定席におつきください」


客席からは、笑い声も起きている。


さて、ようやくアンコールの声から解放された由紀と史が戻って来た。

由紀は、待ち構えていた全員とハイタッチをして、喜ぶけれど、史はいつもの冷静顔。


そんな史の手を、里奈がサッと握る。

「史君、お疲れ様、良かった」


史もようやく表情を崩した。

「ありがとう、里奈ちゃん。三階では隣の席だよ」

里奈は、顔が真っ赤になっている。


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