第581話道彦と史のコラボ(4)

道彦と史の「アランフェス」には、マスターと大旦那も聴き入るしかなかった。

演奏が終わると

マスター

「いや・・・いいものを聴いたなあ」

大旦那も深く感じ入った様子。

「スペインの奥深い魅力と言うのかなあ、それ以上の何か異空間を感じるような演奏だった」


そのマスターと大旦那が道彦と史のほうに向かって歩きだしたので、同じように客席にいた華蓮、由紀、亜美は立ち上がることになった。


華蓮、由紀、亜美が頭を下げると、まず大旦那は亜美に深く頭を下げる。

「道彦を頼みます、しっかりと支えてください」


亜美は、途端に身体が硬直してしまう。

何しろ、頭を下げられた相手は旧摂関家の筆頭であり、官邸にも出入りする超大物なのである。

「はい・・・ふつつかですが・・・」

その声も震える。


道彦と史も、その様子を見て、ステージから降りてきた。

道彦も大旦那に頭を下げた。

「大旦那、わざわざありがとうございます」


大旦那は道彦に笑顔。

「ああ、素晴らしい演奏だった。ヨーロッパ暮らしが音楽に深い味わいを与えているな、素晴らしくよかった」

そして大旦那は、また亜美に頭を下げてから

「道彦も、こんなに素晴らしい女性ができて、安心した」

「見ただけでわかる、心根のやさしい、それでいて芯がしっかりとした女性だ」

「道彦も、しっかりと大切にしなさい」

と、道彦に諭す。


道彦は、そのまま亜美の隣に立ち、笑顔をみせる。


マスターが史に声をかけた。

「二人の披露宴の時は、道彦君と史君のコラボが聴きたいなあ」


史もうれしそうな顔。

「結婚式にふさわしい華やかな曲がいいですね」


その史の言葉に、亜美はまた感激した。

「また、二人の演奏が聴けるのか・・・幸せ・・・」

その思いが余って、道彦の手をギュッと握る。

道彦には、その握る力が強かったのか、驚いたようなうれしいような顔。


ただ、由紀は、少し気に入らなかった。

「史のアホ!私だって歌は歌えるのに」

「一言もない!無視しているってわけ?」

「どうして、こう性格が悪いのかなあ」

そうは思っても、なかなか大勢の前では、史への文句も、ましてや「ポカリ」も難しい。


由紀のそんな「心の中の想い」はともかく、道彦と史はまたステージに戻った。

その後はジャズ中心に、コラボをずっと楽しむことになった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る