第580話道彦と史のコラボ(3)

カフェ・ルミエールビルの地下ホールで、道彦のトランペットの練習が始まった。

史は、道彦の伴奏をつとめる。


亜美と由紀が、仲良く並んで客席に座っていると、華蓮も姿を見せた。


華蓮

「聞きたくなってきちゃったの」

由紀は、恥ずかしそうな顔。

「史のアホがゴチャゴチャ言ったけれど、亜美さんに助け舟してもらって聞きに来れました」

亜美は、クスッと笑う。

「いえいえ、史君は弟みたいに可愛いので、由紀ちゃんは妹かな」

華蓮はそんなやり取りが面白い。

「こうなると、一度女子会かなあ」


さて、そんな客席はともかく、道彦と史が練習している曲は、

「ロドリーゴのアランフェス協奏曲のトランペット版」

本来はギター協奏曲を、トランペットがソロとなるよう編曲したもの。


史の穏やかで静か目の前奏に続いて、道彦のトランペットソロがはじまった。

アランフェス協奏曲ならではの、哀愁を帯びたメロディーがホールに響く。


華蓮は肩の力が抜けた。

「ふうっ・・・ため息がでる、二人とも上手」

由紀は、史の文句を言いながら、うっとりしている。

「史はピアノだけは上手い、性格は意地悪、史彦さんはトランペット上手いなあ・・・音がきれい」

亜美は、両手で胸を抑えている。

「すごい、なんか・・・史君も道彦さんも、この世の人?」


そんな状態で、まず一回目の練習が終わった。

史は、道彦に声をかけた。

「お疲れ様、上手でした」

道彦も満足そう。

「史君の伴奏が吹きやすいからかなあ」

ただ、史はもう少し注文があるようだ。

「ねえ、道彦さん、今のは楽譜通りだけどさ」

道彦も、史の意図をすぐに理解した様子。

「そうだよね、アランフェスなんだから」

どうやら、二人とも、違う雰囲気に演奏をしたいらしい。


二回目のアランフェス協奏曲の史の前奏は、一回目よりも、より繊細なタッチ。

一音、一音の間を微妙に取る。


その全然違う前奏に続く道彦のソロも一回目とは全く違う。

繊細にして、中空を舞うような儚いアランフェスのメロディに変化した。


これには客席で聴いていた女子組三人は、全く声が出せなくなった。

他人の声も、自分の声も、静かな音も、全て雑音、音楽の邪魔になるのである。


客席の後ろには、いつの間にかマスターと大旦那が顔を見せている。


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