第567話史は家を出たくなった。

華蓮が史に声をかけた。

「ねえ、史君のピアノが聴きたくなった」

すると洋子もにっこり。

「うん、店のBGM止めるからお願い!たまには」

奈津美も、乗り気。

「はい、私がピアノまでエスコートします」

一歩出遅れた結衣と彩は、少し悔しそうな顔。

道彦も、史を見た。

「そうだね、何か頼むよ」


史は、少し考えた。

そして、「三曲ぐらい」と答え、奈津美に「エスコート」され、ピアノに向かう。


さて、史が弾きだした曲は、まずドビュッシーの「月の光」。


まず華蓮が反応。

「はぁ・・・きれい・・・言葉がそれ以外にない・・・」

道彦は目を丸くした。

「・・・ここまですごいの?即プロでもいい・・・」

亜美は、ただウットリするばかり。

「いいなあ、夢見るようなドビュッシー・・・」

洋子

「さすがだよね、久しぶりに聴いたけれど」

奈津美

「一瞬で店の中の雰囲気が、別世界です」

結衣と彩は、弾きはじめから、ひきつけられて、声も出せない。


店内全体からの拍手を受けて、ドビュッシーの次に史が弾きだしたのはリストの「愛の夢」。

ドビュッシーとは少し異なり、固めのタッチで、音を響かせる。

洋子

「ピアノを上手に鳴らしているし、それが音楽の大きさを作っている」

奈津美

「私のためだけに、愛の夢を弾いて欲しい・・・無理か」

結衣

「まあ、里奈ちゃんがいるからなあ」

「何とかして、つけ入るスキを狙っているんだけど」


華蓮、道彦、亜美はただ聴き入るばかりになっている。


史の二曲目が終わった。

また、ものすごい拍手、アンコールの声が高まっているけれど、史は頭を少し下げ、カウンター前の席に戻ってきてしまった。


華蓮は首を傾げた。

「もうやめちゃうの?三曲じゃなかったの?」

道彦も、不思議そうな顔。

「何かあったの?」


史は、コクリと頷いた。

そして、スマホを見せる。

洋子が、そのスマホを覗き込んで、目を丸くした。

「わ!由紀ちゃんのコールが3回も?」

「ラインで、何遊んでいる!すぐ帰って来なさいって!しかも拳骨マーク」

奈津美は焦った。

「・・・もしかすると、家に帰って怒られる?」

結衣は不安気な顔。

「やだーーー!史君が可哀そう」

彩は、同情した。

「由紀ちゃんも、お世話焼きすぎだよ、史君だって高校三年生なのに」


史がそこでポツリ。

「もう、嫌になっちゃう、大学生になったら家を出ようかなと」

あきらかに、嫌そうな顔になっている。








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