第561話由紀の作法のお勉強(1)

由紀は、朝から食事の作法の本をずっと読んでいる。

それは、清と都内の一流と言われる懐石料理の店に、同行するから。

また、今後、清の店を手伝うにあたって、参考にもなると思った。


「まあ、清さんは、都内の懐石の実態調査なんだけど、私は詳しくはわからない」

「でも、細かい作法で恥ずかしいこともしたくないし、そんなことをして清さんに呆れられるのも、それは辛い」

「まあ、母美智子が、そういう躾けは厳しかったから、大丈夫とは思うけれど」

「それを、文字では読んだことがない、躾けの通りやってきただけ」


そんな由紀は、まず「お絞り」をかいてあるページに目をとめる。

「ふむ、お絞り・・・基本的には右側ね、まあ、それは当たり前かなあ」

「取り方は、右手でお絞りを取り、手前の膝まで持ってきて・・・両手首を拭く、これも知っている」

「顔とか首筋を拭くなど、あまり感心しないもの」

「それと温かいのは、消毒のためか、それも理解できる」


由紀は次に「ナフキン」のページに。

「和食では乾杯の直前に取り、二つ折りにして、折り目を手前に膝の上・・・これも当たり前、いつもやっているし」

「でも、和服の場合は安定しないから帯締めに差し込むのか、帯より上は挟まない」

「大旦那の奥様とか、懐紙とかって言っていたけれど、使わないしなあ」


そこまでは、由紀は母美智子の躾けの範囲内で、よくわかっていたらしい。

その目を「箸」のページに移した。

「まず、食事をする際には、天削箸、利休箸、柳箸」

「天削箸は、割り箸の天の部分を削ぎ落した木目の美しさを強調する箸」

「利休箸は、両端を補足削って角を取った箸」

「柳箸は、中太両細、お正月やお祝い事で使う」


「そして取り箸には・・・茶懐石や料亭など、全て青竹で出来ている」

「両細は八寸向け、香の物向け」

「中節は焼き物向け」

「止め節は、煮物向け」

由紀は、ここで、しっかりメモ。

そのまま、これは使えると思ったようだ。


「それと箸の使い方か」

「箸を持つときは、箸の中央から、少し上のあたりを上から軽く握るように持つ」

「箸の左下から左手の親指と人差し指で受けて、右手を右端の方に滑らせる」

「右手を折り返すように下から受け、持ち直す」

「・・・これは自然にやっているかも・・・」


「割り箸は右手で手前の膝まで持ってきて、左手で下側を支えて、右手で上側の箸を持ち上げるようにして割る・・・これもやっている」


由紀の目は、箸使いのタブーに移った。

「割り箸を割る時には、お膳の上で割らないこと」

「左右に割ったり、箸先をこすらない」

「箸を割ったら、必ず一旦箸置きに戻す、割ってすぐに食べだすのは無作法」


由紀は、フンフンと頷き、ページを読み進める。


「それと探り箸、器の中をかき回してはだめ」

「握り箸は、箸を握ったままの手で器を持ってはいけない」

「ねぶり箸は、箸先をなめてはいけない」

「迷い箸は、箸を持ったまま食べるものを迷うこと、それも恥ずかしい」

「渡し箸は、茶碗の上に箸をおいてしまうこと」

「刺し箸は、箸で食べ物を刺して取ること」

「寄せ箸は、料理の入った器に箸を差し込んで引き寄せること」


・・・・・

とここで、由紀は思った。

「史はなんとなく上手に食べるけれど、こういう言葉を知っているだろうか」

「もし知らなかったら恥ずかしい、姉として、教育しなければならない」


そして、廊下に出て、いつもの通り

「史!ちょっと来なさい!」

と、大声を出すと、階下の母美智子から返事。

「史はデートででかけた、里奈ちゃんとね」


由紀は、力をそこで落としてしまった。

「はぁ・・・面白くない・・・」


さて、そんな由紀は、「お勉強を」続けられるのだろうか。




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