第555話華蓮と史(8)

華蓮と史は、長谷観音をじっと眺めている。

華蓮は手を合わせ

「すっごいなあ、大きいし、キラキラしている」

史も神妙

「たまには、しっかり拝んでおこう、トラブルが多いし」


長谷観音は高さ9メートルを超える大きな観音様。

錫杖を右手に携え、岩座に立つ独特の姿をしている。

大和の長谷寺の本尊他、全国に所在する長谷寺に共通する観音像の姿で、総称して「長谷寺式十一面観音像」と呼ばれている。


華蓮が史に、またひとこと。

「ここの十一面観音様もすごいけれど、また別の姿のすごくきれいな十一面観音様もあるよ」


史は、それに関心を持った。

「え?それ?どこ?華蓮ちゃん」

素直に華蓮を見る。


華蓮は、そこでクスリと笑う。

「フフン、やっと真正面で見たね、プールの時は下向いたり横向いたりして、面白かった」

と少し焦らしておいて

「東大寺だよ、四月堂のご本尊」

と、史に教える。


史は、「ほおっ」となった。

そして

「見たくなった、行くかなあ」

とポツリ。


華蓮が、また含みのある顔。

「ねえ、一人で行くの?彼女?私?」


しかし、史は全く答えられない。


華蓮は、ククッと笑う。

「由紀ちゃんと行く?仲良く姉と弟で」


史は、目がパッと開いた。

「それだけはありえない、姉貴はやだ、うるさすぎ」

やはり史にとって、姉の由紀は鬼門らしい。


そんな話をした後、華蓮と史は長谷寺の海光庵で少々休憩。

二人とも仲良く、お団子と抹茶。


華蓮

「たまにはお団子もいいね」

と、パクパク。

史は、ゆっくり目に食べる。

「なんか、ほっこりする味、プールの後だからかな」

「お団子もお茶も美味しい」

華蓮は、そんな史が可愛い。

「史君とまたデートしたいなあ、奈良に行こうよ」

と誘いをかける。

史は、目をパチクリ。

「行きたいけど・・・うーん・・・」

これでまた、史は優柔不断である。


さて、華蓮と史は、鎌倉の土産などを買い、まっすぐに帰宅した。


家では、由紀が手ぐすねを引いて待っていた。

まず華蓮にと頭を下げ

「史のお世話ありがとうございました」

「本当に世話が焼ける子だけど」

と言いながら、史に

「史!私へのお土産は?」

「まさか、また定番?」


史はまた、うろたえた。

お土産は確かに「定番サブレー」だったから。


華蓮と母美智子は、由紀と史の掛け合いに、笑いを抑えきれないでいる。

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