第553話華蓮と史(6)

史のカルーアミルクビアは、結局、華蓮が半分くらい飲んでしまった。

その華蓮は、ご機嫌。

「そうだねえ、これくらいがいいかな、甘くなくて」


史はどうにもならない。

「だったら、最初から自分で頼めばいいのに」

と思うけれど、とても口に出す勇気はない。

それに目もあまり開けられない。

何しろ、華蓮のビキニ姿は綺麗過ぎる。


さて、華蓮はそろそろ泳ぎたくなったらしい。

プールサイドチェアから起き上がり、しきりに柔軟運動、屈伸運動をしている。

史は、その次の言葉は、予測できた。


そして、「予測通り」の言葉が降ってくる。

「ほら!史君も泳ぐ!プールに来て寝ころんでいるだけじゃだめ!」


ここでも史は反発したいけれど、無理。

心の中では

「そもそも華蓮ちゃんが、プールまで引きずってきたのに」

とは思うけれど、ここでも言い出す勇気はない。


史は、それでも起き上がった。

「そうだね、泳ごう、せっかくだし」

そして柔軟運動を少ししていると、華蓮は全然、それを待たない。


華蓮

「ほら!グズグズしない!入るって!」

ぐっと史の腕を組み、プールまでまた史を引きずる。


それでも、プールに入れば、ようやく腕が離れた。

史は、それでホッとした。

腕も離れるし、華蓮のビキニ姿を直視することもない。

「ちょっとだけ泳ぐかな」と思った。

幸い、プールサイドには人が多いけれど、プールの中そのものには人は少ない。


史はクロールで泳ぎ始めた。

どちらかというと、平泳ぎは苦手。

バタフライは、すぐに疲れるので、あまりやらない。


「久しぶりだから気持ちがいい」

「身体がスッとする」

「たまにはプールもいいなあ」

史も、クロールが楽しかったし、気持ちがよかった。

しかし何より、隣に華蓮がいないのが気楽。


史は、そこで決めた。

「端から端まで泳ごう、広いプールだから」

また、気持ち良く泳いだ。

そして、ゴールに到着、そこで少し休憩していると、聞きなれた声が近づいてきた。


華蓮だった。

「史くーん、すっごい綺麗な泳ぎ!」

「かっこよかった!」

それも、大はしゃぎになっている。


何のことはない、華蓮も途中から、史を追って泳いできたらしい。


史は焦った。

「え?華蓮ちゃんも泳いでいたの?」

何しろ、近くにはいないと思い込んでいたから。


しかし、大はしゃぎの華蓮は、史の言う事など何も聞いていない。

いきなり史の腕を取り、そのまま思いきり史をハグ。

そして華蓮は、ますます大はしゃぎ。

「いやーーー!これがしたかったの!」

「これも、子供の時以来!」

「史君も成長したねえ!」


史は、真っ赤になって思った。

「成長したのは、華蓮ちゃんだって・・・」

「恥ずかしいよ、人が見ているのに」


結局、華蓮の気持ちは、史を見ると子供時代に戻ってしまうらしい。









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