第504話史の新しい難題 真由(5)

さて、史は一階で、由紀と母美智子がそんな相談をしていることなど、まったく関知しない。

そして由紀が、伝えてきた「真由」についても、関心がない。

「だって、そんな子知らないし、僕は里奈ちゃんが好き」

そこまで思って、史はやはり真面目、勉強を始めてしまった。


「今日は、音楽史と英語、少しでもテキストを習っておかないと」

「内田先生も推薦で大丈夫って言ったけれど、やはり身につけるべきは大切」

「そうしておかないと、実際に困る」

ということで、史ならではの「ていねいな文字」で、ノートに書いていく。


しかし、それも約1時間半ほど、少し疲れて珈琲でも飲もうと思って、一階のリビングに降りると、母美智子と由紀が珍しく深刻な顔で話をしている。


史は、何かあったのかと思って心配になった。

「ねえ、何か不幸でもあったの?」

京都関係で、誰か亡くなったのかと思ったのである。


しかし、母美智子も姉由紀も首を横に振る。

そして、まず由紀は、

「だから、真由の話をどうするかってこと」

美智子は

「付き合わない方がいいね、そういう子って」

との、史にはよくわからない話。


史は、困った。

そして不機嫌になった。

「ねえ、二人とも、それじゃ、意味わからないって!」

「何をしたらいいの?どうすればいいの?」

「姉貴に言われたけどさ、顔もわからない、名前も知らない人が、何だかんだいってきてもさ、僕は勉強もあるし、音楽部も合唱部も、カフェ・ルミエールの楽団もあって、これ以上は無理」

「体力的にもギリギリ、気持ちもギリギリ、予定も目一杯なの」



珍しく不機嫌な史の顔を見て、母も姉も、頭を抱えるけれど、史はさらに言葉を続けた。

「僕は、里奈ちゃんが好きなの」

「だから、その子が何を言ってきても、それを貫く」

「オタオタするほうがおかしい」

「迷惑なら迷惑って、はっきり言う」

史が、そこまで言った時だった。


由紀のスマホが光った。

由紀は、スマホの画面を見て、ビクッとした。

「・・・お母さん・・・真由だ・・・」


母美智子は、顔をしかめている。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る