第483話史と洋子の不思議なデート(5)

ようやく「偉い人たち」への顔みせが終わったらしい。

史はルクレツィアに腕を組まれたまま、席に戻って来た。

ルクレツィアは洋子に、状況説明。

「ねえ、史君、さっそく人気者だよ、話の合わせ方がすごく上手」

「これなら、イタリア留学しても、全く問題ない」

「とにかく相手の呼吸を読んで、面白いことを言うの」

「あの大使館の人たちとか、バチカンの人たちは、すごく期待するかもしれない」

とにかく、史の応対と、人気者の状況をほめたたえる。


洋子は、そこで、少しホッとした。

「うん、ひとまず大丈夫かな」

「史君、時々、引っ込み思案だからな、繊細なところもあるし」

「でも、連れてきてよかった」


ただ、ルクレツィアには、もう少し、洋子に話をつけることがあるらしい。

フフンと笑って、言葉を続ける。

「それでね、こういうパーティーで人間が多いところじゃなくて、私個人が史君を招待しようかとね」

「いろいろと、イタリアとかヨーロッパとか、レクチャしたいの」

「なるべく早く、知識を仕入れた方がいいから」


ホッとしていた洋子は、また焦る。

「え?何?個人的?」

聞き返すけれど、ルクレツィアは洋子の顔などは見ない。

「じゃあね、史君、あとで連絡する」

と、史にウィンクしてステージに向かって歩き出してしまった。


洋子は、ハラハラしてきた。

そしてハラハラがこうじて、史に少々立腹する。

「ねえ、史君、マジなの?」

「ルクレツィアにアドレスとか教えちゃったの?」


史は、そんな洋子の珍しくキツイ顔がよくわからない。

「はい、いろいろと、教えてくれるってお話でしたので」

「ルクレツィアさん、かなり有名人のようで、大使館の人とかバチカンの人とかも、たくさんお知り合いで」

「本当に明るくて、親切な人ですね」


洋子は、史の「まともな返事」で、また焦る。

それに、この場所では、「だから、そういう意味じゃなくて、ルクレツィアは惚れっぽくて強引で、アブナイ」などとは、とても言えない。


史は、そんな洋子に、もう一言。

「あとでピアノを弾いてって言われました」


洋子は、またキツイ顔。

「ここの大広間だけにして、いい?わかった?」


史は、その言葉で、完全にキョトン状態となっている。



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