第444話銀座、日本橋散歩(10)

史が「ジャズ=合唱バージョンのタキシード・ジャンクション」の前奏を弾き始めると、すぐに聴衆からリズムにあわせて手拍子が起こった。

合唱団は史のピアノにあわせて、身体を揺らし、歌い始めた。


「うふ・・・かっこいい」

「あのハモリが、おしゃれだなあ」

「ソロは、岡村さん?」

「オペラ歌手のジャズ・ヴォーカルだ!」

「いやーーー上手!」

「ピアノも合唱も、すっごくかっこいいスゥイングしてる!」

とにかく、聴衆の手拍子も曲が進むにつれて、大きくなる。


「ジャズ=合唱バージョンのタキシード・ジャンクション」は、圧倒的な盛り上がりのなか、終わった。

そして、再び大きな拍手に包まれた。


その大きな拍手を受けて、岡村顧問が聴衆にお辞儀。

「ありがとうございました、これにて、終了です」

その挨拶で、また大きな拍手に包まれ、あちこちから「アンコール」の声もかかる。


岡村顧問は、そこで史と由紀に相談。

「どうしよう?」

史は

「これで終わりです、そろそろ」

と、アンコールには応じない雰囲気。

由紀も同じく首を横に振る。

「突然で、これ以上は、ごめんなさい」


岡村顧問も、「これでは仕方がない」と思ったようだ。

再び、聴衆にお辞儀。

そして、合唱部員に手で合図、合唱部員もステージから降り始めた。

その様子を見て、集まっていたたくさんの聴衆もあきらめたらしい。

少しずつ、ステージ前から去っていった。


史と由紀は、ここでようやくホッとした。

史が岡村顧問に頭を下げた。

「そろそろ、次の用事がありますので」

岡村顧問は、またほがらかな顔。

「ああ、突然だったけれど、面白かった」

「アンコールは一曲で充分、大掛かりなコンサートじゃないんだから」


由紀も岡村顧問に頭を下げた。

「また、後輩たちの指導をよろしくお願いします」

岡村顧問は、ほがらかな顔のまま

「由紀さんも、また遊びに来て、一緒に歌おう」

「カフェ・ルミエールの楽団でもいいけれど」

と、由紀の肩をポンと叩く。

由紀も、うれしそうな顔になっている。











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