第432話マスターのフルコース(3)

全員が、色とりどりのマカロンを食べていると、マスターが食後の珈琲をワゴンに乗せて

「今日は、エスプレッソにしたよ」

と、簡単なご挨拶。


しかし、マスターのフルコースを味わった全員は、簡単には終わらない。

由紀

「マスター!すごかった!美味しかった!ありがとう」

加奈子

「マスターの本気料理、大感激や」

愛華

「食の悦楽を味わいました」

大旦那は

「ただ、拍手と感謝しかないな」

奥様は

「ほんと、すごいわねえ、ますます腕に磨きがかかって」

奈津美は

「こんなすごい人と、いつも一緒なんて、幸せ」

結衣と彩も、同じ感想らしい。

奈津美の言葉に頷き、マスターをウットリと見ている。

洋子は

「さすがです、としか言いようがない」

美智子も

「伝統を受け継ぎ、また新しい境地だね、とにかく素晴らしい」

晃からは

「特に最後の子羊は、絶品を超えている」

ずっと黙っていた史がマスターの顔を見て

「ありがとうございました、元気になれそうです」

と頭を下げる。


マスターは、そんな史を見て、うれしそうな顔。

そして、全員に声をかける。

「俺の料理を喜んでくれて本当にうれしい」

「それから、気づいた人もあるかもしれない」

「今日のメニューは、ソースを含めて、全て史君の大好物ばかり」

「だから、何より史君に元気を出して欲しかった」


史も、途中からわかっていたらしい。

再びマスターに頭を下げた。


マスターは、

「今日は、竜の一件もあって、史君も辛かっただろうし、周囲も相当心配したけれど」

その言葉で、特に由紀と美智子が、顔を下に向ける。


マスターは再び言葉を続けた。

「俺としては、そんなことで、史君を責めたりするのは、よくないと思った」

「そんなことより、史君をバックアップしたい」

「一族の中でも、というか、そんなことを越えて、稀に見る音楽の才能の持ち主」

「確かに文章も優秀、しかし、その音楽性は傑出している」

「だから、一族も史君を全面的に応援することを決めた」


そして、史を見た。

「史君、大丈夫だ、みんなで支える」


史は、立ち上がった。

そして、マスターと握手。


マスターと史は、ちょっとウルウル状態。

そんな二人の様子で、結局、全員が目頭を抑えている。

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