第428話地下ホールにて

洋子の新作ケーキを堪能した史たちは、料理の準備をするマスターだけを残して、地下ホールに向かった。

理由は、「腹ごなし」として、史がピアノを弾くため。

そして、史のピアノにあわせて、由紀、愛華、加奈子が女性コーラスをすることになった。

やはり、マスターの力強いフルコースを味わうためには、一定のカロリー消化が必要と考えたのである。


史は、まわりが全て「身内」のため、ピアノを弾くのにも、まったく抵抗を見せない。

スンナリとピアノの前に座って、ワルツの前奏を弾き出した。

これは、由紀、愛華、加奈子もすぐにわかった。

「美しき青きドナウ」、どうやら京都のお屋敷で、歌ったことがあるらしい。

全員がニコニコして、声を合わせている。


大旦那

「ああ、いいなあ、心がウキウキする」

奥様

「史君の伴奏も、リズムもテンポも、歯切れがよくて、気持ちがいい」


次の曲は、なんとハワイアンの「I miss you my Hawaii」

史のピアノにあわせて、由紀がリード・ヴォーカル。それに加奈子と愛華がピッタリとハーモニーをつける。


大旦那

「いや・・・これは、きれいだ」

奥様

「本当、ハワイの青空と美しい海を思い出します」

大旦那

「史も、うれしそうに弾いているなあ」

奥様

「みんな、気持が通い合っているから、うれしいんでしょう」


さて、曲の途中から、晃と美智子が、地下のホールに入ってきた。

「御迷惑かけました」

どうやら、午前中の史のトラブルを言っているらしい。

美智子も、大旦那と奥様に、頭を下げる。


大旦那は、その手をヒラヒラとさせて、

「ああ、いや、頭を下げる必要はない」

「史は、完全に被害者で、そのうえ、全員が暴言を吐かれている」

奥様も

「顔を見たら、キッチリと始末をつけます」

と厳しい顔。


晃は、少しホッとした顔で

「竜という子供は、音大を退学処分」

「それから竜の関係する音楽家斡旋団体も契約解除と、学長から」


大旦那は、それに頷き、厳しい顔。

「ああ、竜も含めて、あの一族は出入り禁止だ」

「史が許しても、俺が許さん」

「何しろ、あの財閥の理事でもある、理事会で全て報告して、糾弾する」


さて、大旦那たちと、晃がそんな話をしていると、史たちもステージを降りてきた。

どうやら、史たちも、「その後」が心配な様子らしい。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る