第421話佃島へ(4)佃煮店にて

マスターは、隅田川沿いの佃煮店に入った。

史たちも、あとに続く。


店内には「安政六年創業」との額があり、百六十年ほどの歴史。

それでも、新築をしたためか、明るい店になっている。

そして、店内のショーケースには、アミ、シラス、アサリ、昆布、香味楽、まぐろの角煮、ハゼ、エビ、いかあられ、葉唐辛子、ワカサギ、キャラブキなど、かなりたくさん並んでいる。


マスターも満足そうな顔。

「この佃煮の独特の香りが好きなんだ」

史もうれしそうな顔。

「ご飯が食べたくなる」

由紀も、ついついゴクリ。

「おなかが、減ってきた、マジで」

愛華も、目を輝かせた。

「全部、買って帰りたい、宅配しないと」

加奈子も愛華と同じ。

「なんか関西とか京都とは違う、江戸のパワーを感じる」

「うちも、全部宅配する」


マスターは、店主とも、懇意な様子。

マスター

「先代とは、長い付き合いでね」

と、声をかけると

店主もうれしそうな顔。

「はい、先代も、マスターとのお話を楽しみにしておりました」


マスターは、話を少し深めた。

「最近は天候不順もあるから、大変かな?」

店主

「イカも不漁になってみたり、葉唐辛子も仕入れが難しくて」

と難しそうな顔になる。

マスター

「とにかく、俺も応援するしさ」

と、言って後ろを一旦振り返って

「こんな若い連中もさ、江戸の味を楽しみにしているんだ」

「ずっと守ってくれ、頼むよ」

と、声をかける。

店主は、また、うれしそうな顔になる。

「そこまで応援されると、サービスしたくなります」

マスターは、そこで笑った。

「あはは、それが狙いさ」

「でも、この子たちの、味覚も俺が保証する」

「こういう子たちにも、江戸の味を知って欲しい思ってさ」


店主は、その言葉で、手が動き出した。

そして、佃煮をあれこれ出しながら、

「それでは、皆さん、ご試食を」

と、全員の前に。


「わ!このアミ・・・噛みしめると、すっごい」

由紀

「うーーこの角煮・・・ご飯が丼でも足りない」

愛華

「え・・・このアサリ・・・背筋がシャンとなる」

加奈子

「エビも甘くて・・・お茶うけにもなるなあ・・・やみつきになりそう」

まず、子供たちは、大好評。


マスターと店主は、目を細めて、そんな様子を見ている。

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