第413話史・由紀・愛華・加奈子の音大見学(10)
内田先生は、言葉を続けた。
「ねえ、小さなホールがあるから、そこでピアノを弾いてごらん?」
「音響もいいからさ、曲は何でもいいよ」
「史君のソロでも、誰かとアンサンブルしても」
要するに、史のピアノを聴きたいようだ。
それには、学長も榊原先生も頷いている。
史は、その話を聴いて、少し考えた。
結論は早かった。
「来年、卒業すれば、ここの音大にお世話になりますので、是非、弾かせていただきます」
史にしては、積極的な結論。
すると由紀は「え?まずい!」という顔。
加奈子は、うれしそうな顔。
愛華の目は、輝いた。
榊原が、そんな史に声をかけた。
「史君、ソロもいいけれど、室内楽やってみる?」
「ピアノ五重奏とか、どうかなあ」
「弦とかのメンバーはこっちで集めるよ」
すると史の顔がパッと輝いた。
そして
「あ!やってみたいです、お願いします!」
「シューマン、シューベルト、ブラームス、ドボルザーク」
「何でもいいです」
とにかくうれしそうな顔になった。
ただ、由紀は、少し困った。
そして史に小声で怒った。
「あのさ、史!何をはしゃいでいるの?」
「今日の目的って、愛華ちゃんと加奈子ちゃんの音大見学でしょ?」
「主役は、史じゃないの、それを史がはしゃいでどうするの?」
「それだから、史はアホって言われるの」
「どうして、場ということを考えないの?」
史も、由紀にそう言われては、無理と思ったようだ。
今日の目的を考えれば、史がはしゃいでいる場合ではないと自覚した。
そして、先生方に頭を下げた。
「すみません、やってみたいのは、本音ですが」
「今日は目的が違います、あくまでも音大見学です」
「アンサンブルは、またいつか、日をあらためてということでお願いします」
それを聞いた先生方は、残念そうな顔。
加奈子は、「また由紀ちゃんの、命令グセが始まった、いつまで史君を完全支配したいのかなあ」と、がっかり顔。
愛華も「怖いお姉さんやなあ、一番、場を壊しているのは由紀ちゃんや、聴きたかったのに」と、肩を落としてしまった。
ただ、それでも先生方は
榊原先生
「まあ、音大見学というのなら、案内しよう」
内田先生
「私も、ご一緒するよ」
と、史の一行が学長室を出ると、案内のため、先を歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます