第382話音大訪問(6)学長室へ

由紀のタクラミ顔はともかく、史はキョトンとした顔のままになっている。

とにかく、かなり長い間悩んでいた進学問題が、スンナリ片付いてしまったので、気が抜けてしまっているようだ。


そんな史に榊原が声をかけた。

「まあ、この業界というのは、基本的には実力が大事」

「史君の類まれな実力と、将来の有望性を認めたから、この話になった」

「後は、史君の努力しだいとなるよ」

内田先生も

「そうだね、演奏にしろ、音楽理論とか音楽史の勉強も含めて、懸命に取り組むだけ、その中で方向性が見えてくる」

「それと史君が文章も上手って聞いたから、音楽に加えた魅力もある」


そんな話をしていると、レッスン室の内線が鳴った。

榊原が内線を取り、何か返事をして史の顔を見た。

そして

「史君、ついでだから学長室まで行こう」

「学長も、史君の顔を見たいそうだ」

そこまで言って、ニッコリと笑う。


それを聞いた史は、ますますビックリ。

「え・・・マジですか?そんな急に」

と、ついつい尻込み。

由紀も驚いた。

「マジ?こんな史みたいな子を見たいって言うの?」

「私から見れば、ただのガキなんだけど」

と思いながらも、史の背中をポンと叩く。

「史!せっかく話が決まったんだから、オタオタしない」


内田先生と榊原先生に、そんな様子を笑われながら、史は学長室に入った。


史がキチンと頭を下げ

「史です、今後もよろしくお願いします」

と、ツキナミはことを言うけれど、学長はにこやかである。


「まあ、いろいろな縁があって、この音大を志望してくれるというのは、本当にうれしい」

「まだ一年間あるけれど、しっかりレッスンに励んでください」

「史君の希望している音楽史、音楽理論の書籍もしっかり揃っているので、それについては全く問題はありません」

そこまで、言ってくるけれど、史は少しカチンコチン状態。


学長は言葉を続けた。

「それから、史君とお姉さんの由紀さんのお父上の晃さんとは、長年の仲良しでね」

「若い頃は、いろいろと遊んだものさ」

「だから、何も心配することはないよ、安心していて欲しい」


史は、学長のその言葉を聞いて、少し顔が和らいだ。

「そうか・・・父さんが声をかけるっていっていたなあ」

「家に帰ったら、ちゃんと報告してお礼しないと」


由紀もホッとした様子。

「まあ、何でもいいや、話がまとまれば」

「でも、こんなにスンナリだと、付き添いの意味が無いなあ」

「まあいいや、帰りにケーキでもおごらせよう」

そう思うと、由紀の顔はニンマリ顔に変化した。

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