第362話京都での披露宴(5)

マスターの挨拶も終わり、料理が一斉に運ばれだした。

基本的にはおせち料理となるけれど、いわゆる出来合いではない。

全てお屋敷の中で、調理をしながら出すので、温菜と冷菜など、全て口に入った時に一番美味しく食べられるようになっている。


普段は、食味に細かい史は

「面倒かもしれないけれど、このほうが美味しい」

由紀は

「でも、ここのお屋敷だから、こういうことが出来る」

「ほぼ、料亭だよね」

晃は

「そうだね、あのマスターも素直に食べている」

美智子は、それでもマスターの表情を細かく読んでいる。

「ほぼ文句を言わないで素直なんだけど、時々、首を傾げるよ、何か気に入らないかも」


史の隣に座っていた加奈子も

「なんか、ブツブツいっていてさ、涼子さんに叱られている、それが面白い」

そんな加奈子に史がポツリ。

「あのね、今回の宴会でね、マスターが何か仕掛けると思うよ」


加奈子は、面白そうな顔。

「あ・・・それ、少し聞いた、あれでしょ?」

由紀も

「うん、私、あれ、大好きなの」

美智子は

「あそこのホテル名物なんだけどね、それをマスターがこのお屋敷の料理人にレシピ渡していてさ」

晃は、マスターの顔をチラチラ見ている。

「きっと、本当は自分で作りたいんだろうけどね」

「でもしょうがないさ、自分の披露宴で自分が料理を作れないしさ」


どうやらマスターの得意料理の一つを、このお屋敷の和食料理人に伝授したらしい。


史たちは、そんな話をしていたけれど、司会の執事吉川が史のところに歩いてきた。

そして

「史様、由紀様、加奈子様、そろそろ演奏のご準備を」

「愛華様にもお伝えをいたしました」


史が由紀と加奈子に目配せして立ち上がると、晃から声がかかった。

「マスターの好きな曲も一曲追加するんでしょ?」


史が頷くと、晃がニヤリ。

「引っ張り出すから、歌わしちゃおう」


史、由紀、加奈子は、ニッコリと笑っている。

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