第354話お屋敷での昼食

お屋敷での昼食は、食堂に入っての純和食だった。

差し向かいで、晃一家と孝、彰子、加奈子、愛華が座る。


孝は久しぶりの会食を喜んでいる。

「料理人たちも喜んでいたよ、晃の家族は味がわかるってね」

晃もニコニコと答える。

「そうだね、食い道楽が多い」

ただ、兄弟の会話はともかく、出て来る料理はすごいものがあった。


前菜で、青菜のお浸し、白魚金婦羅、笹巻き寿し、海老慈姑オランダ煮。

御椀は白味噌仕立てで海老芋、帆立、人参、青菜など。

一盛りで、茹で蟹を生姜酢にて。 

お造りは、鰤照り焼き、芽生姜、松葉刺し。

出し巻き玉子や金柑蜜煮、麩田楽もある。

温物として、蕪蒸し、甘鯛、木耳、銀杏、百合根など

それに、釜炊きの大根ご飯、香の物 赤出しの味噌汁。

デザートは苺だった。


彰子が史に声をかける。

「史君、どう?お口に合う?」

史はハンナリと答える。

「はい、どれも口に優しい味で、食べやすいです」

美智子は

「さすがお屋敷の料理人ですね、全ての調理が完璧です」

と、目を閉じて味わっている。


そんな史と美智子に加奈子は、微笑んだ。

「うん、この二人は味覚がすごいから、そう言われるとうれしいね」

由紀は

「うん、確かに美味しい、関東の味とは違うけれど、これはこれで好き」


さて、愛華は食べながら史の顔をずっと見ている。

とにかく、史から目を離したくないようだ。


その史が

「ねえ、孝叔父さん、マスターの披露宴はどんな料理にするの?」

と尋ねた。

孝は

「うん、ベースは京料理になるよ、一族の集まりの定番だから」

孝は素直に答えた。

晃も

「マスターも京料理で満足すると思う、と・・・言うよりは」

クスッと笑う。

その晃の笑いの意味を美智子が読んだ。

「つまりね、下手にフレンチとかにすると、マスターは首を傾げる」

由紀も

「そうなんです、横浜の披露宴でもね、レシピ通りに作っても、ちょっと違うって顔をしていました」


加奈子は、少し考えた。

「でもね、マスターの料理もたまには食べたいなあ」

「あのズシッとした風格のある料理」


孝がそれに反応した。

「そうだねえ・・・何か考えよう」

「マスターの腕前がわかるようなこと、披露宴でのイベントとして」


晃も

「マスターは他人には食べさせても、他人からは食べさせられたことが少ないはず」

「負担がかからない範囲で・・・何か・・・」


マスターの披露宴は、例年の一族の集まりとは、また異なる方向で進んでいる。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る