第348話披露宴(8)大旦那の挨拶

披露宴はなごやかに進み、最後に大旦那が親族を代表して、挨拶をすることになった。

大旦那は、マスターと涼子に会釈、そして出席者に深く頭を下げ、話しだした。


「皆様、本日は我が甥の佳宏、涼子、そして祥子の披露宴に、お忙しい中をお越しくださり、親族を代表して、深く御礼申し上げます」

「さて、皆様も既にご存知の通り、佳宏はわが一族の出身、それが様々な理由により、一時一族を離れ、ここのホテルでしっかりとした修行をさせていただきました」

「それにつきましては、わが一族を代表して、私から深く御礼申し上げます」

大旦那は、ホテルの支配人やシェフたちの顔を見て、深く頭を下げた。


大旦那は話を続けた。

「そして、佳宏は、ここのホテルの時代に、涼子さんを知り、その時の縁で、しっかりと結ばれることとなりました」

「その上、祥子ちゃんという、天使を授かり、この上ない幸せに包まれております」

「この幸せにつきましては、佳宏を選び支えてくれた涼子さん、そして涼子さんを育ていただいたご両親様のご慈愛の賜物と存じます、心より感謝申し上げます」

大旦那は、涼子の両親と親族にも頭を下げた。


「そして今は、都内でここのホテルでの経験を活かして、カフェ・ルミエールという店を開き、素晴らしい好評をいただいております」

大旦那は、再び出席者全員に深く頭を下げた。

「今後とも、この親子三人、そしてカフェ・ルミエールに末永いご支援をお願いいたします」


話としては、要点そのもの。

しかし、大旦那の話し方は重く、聞く人の心を打つ。

大旦那の挨拶が終わった時点で、会場は大きな拍手に包まれたのである。



さて、披露宴の全てのプログラムが終わった。

史たちが楽器などの片付けをしていると、マスターと涼子を囲んで、ホテルマンたちが集まっている。

もちろん、元々はこのホテルに在籍していた美智子や洋子も、その輪の中にいる。


マスターが集まった全員に頭を下げた。

「ああ、今日はありがとう、緊張しちゃったよ」

支配人

「あはは、わかった、面白かった」

と笑う。

シェフは

「大旦那の指定通り、というかマスターのレシピ通りにしましたよ、でも改めてマスターの技術を思い出しました」

と笑うと

マスター

「ああ、ごめんな、悪気はない、君の味付けも嫌いではないさ」

と苦笑い。

美智子は

「うん、懐かしい味だった。マスターの披露宴だからね」

と笑う。

洋子

「私はついつい、口出しした」

洋子は、後輩に何か注文をつけたらしい。

そんな洋子に、涼子

「気にすることないって、感激していたよ、あの子達」

・・・・・なかなか旧知の間柄、話は尽きない。



そんな様子を見ている大旦那が史に声をかける。

「史君、京都でも頼むよ」

「司会と音楽か・・・加奈子も愛華ちゃんも期待している」


史は普通に頷いているけれど、隣で聞いていた由紀は不安顔。

「うーー・・・そっちのほうが不安」

「・・・どうしよう・・・」

出るのはため息ばかりの状態になっている。

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