第347話披露宴(7)マスターの歌と由紀と史

マスターは、ついにギターを抱えた。

そして、史に目配せ。

史もニッコリと笑う。

そしてマスターはイントロを弾き出した。

曲はすぐにわかった。

晃がつぶやいた。

「ヒア・カムズ・ザ・サン、彼は上手いんだ、これ・・・」


マスターが歌い出すと、史がピアノを弾きながら声を合わせる。

大旦那も喜んだ。

「ああ、いい曲だ、歌もギターも上手い、会場がパッと明るくなった」

奥様も

「うん、佳宏君の顔が輝いている」


涼子は驚いた。

「あんなに美味かっただ、声もきれい」

「隠していたんだ」


そんな涼子に美智子

「ねえ、時々お店でも歌わせたら?」


しかし、涼子は首を横に振る。

「絶対歌わないと思うよ、けっこう頑固」

そんなことを言っていると、曲が終わった。

マスターはギターを高く掲げて、出席者全体からの拍手を受けた。

少し照れているような顔をしている。


史がマスターに声をかけた。

「もう一曲ですよね」

今度はマスターもすぐに受けた。

「うん、史君、ピアノを頼むよ」

史はまたニッコリ。

ピアノの前に座り、イントロを弾き始める。


洋子がすぐに反応する。

「わ!スタンド・バイ・ミーだ!」

奈津美も

「うわーー!マスター声がきれい、渋いけど!」

結衣

「うっとりしちゃう・・・いいなあ・・・」

彩も

「はぁ・・・私、声がでないくらい感激している」


由紀は途中から我慢ができなかった。

マスターの隣に無理やり立った。

そしてマスターとハモリはじめた。


大旦那

「ああ、これも名曲だ、由紀ちゃんも歌いたくなったんだ」

奥様は

「いいねえ、音楽が出来るって」

晃も美智子も、ニコニコとして聞いている。

しかし、何か意味がありげな顔をしている。


マスターの歌は、二曲だけだった。

また大きな拍手を受けて、涼子の隣の席に戻った。

マスターは涼子に

「全く、恥ずかしい、ホテルで歌うなんて思わなかった」

そんなマスターに涼子

「ねえ、あの頑固者のマスターが後輩の前でねえ・・・」

「私なんか一度も聞いていない」

「どうして聞かせてくれなかったの?」

ついつい文句を言っている。


マスターはここで困った。

「えーっと、理由なんかないさ」

「ここは仕事場だし、俺が歌を歌う場所じゃない」

必死に抗弁するけれど、涼子は納得しない。


涼子

「でも、晃さんも美智子さんは知っていたよ」

「どうして私が知らないの?」

マスターが返事に困っていると晃と美智子がマスターの前に来た。


美智子

「涼子さんは初めてでしょ?マスターのギターとか歌」

涼子の不満そのものを言い当てる。


涼子がそれに頷くと、晃が説明をする。

「あのね、涼子さん、マスターは由紀と史が子供の頃ね、我が家に来るといつも、ギターを弾いて歌ったんだ、今日歌った曲も、ほぼ定番」


マスターは恥ずかしそうに頭をかいている。



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