第276話風邪をひいた由紀

日頃、健康には自信を持っていた由紀が、風邪を引いて寝込んでしまった。

美智子

「コンサートの前にねえ・・・」

「これじゃあ、他の人に移しても困るから、コンサートの練習は当分欠席だね」

と、素っ気ない。


晃も

「珍しく由紀がトラブルかあ」

「トラブルメーカーは史だったのに」

「まずは、しっかり休みなさい」

「コンサートは無理かなあ」

と、これも素っ気ない。


由紀としては

「初めて第九を歌うのに、練習を休め?」

「コンサートも断念?」

「なんて薄情な親だ」

と思うけれど、何しろ熱は高いし、咳、鼻水が止まらず、反発一つできない。


それでも

「史に風邪移すこともできないなあ」

「史は、ひ弱でアホだから、二次被害もなあ」

と、史には全く期待しない。

そして、咳と鼻水で苦しんでいた夜11時。


部屋のドアがコンコン。


由紀

「誰?」

すると

「姉貴、ちょっと」

史の声がした。


由紀は

「移っても困るから何?」

と返事をするけれど、ドアは開いた。


顔が半分隠れるようなマスクをして、史が入ってきた。

そして、湯気が立っているカップを持っている。


そして史

「レモネードを作った」


由紀

「え・・・ありがとう、甘いのが飲みたかった」

と、一口飲むのだけれど

「うわ!すごい!」

と、その目を丸くした。


「うん、レモンも蜂蜜も少し濃い目」

「その中に、ラム酒を温めて強めに入れた」

「地中海風の風邪薬だよ」


由紀

「酔っちゃいそう」

と言ったけれど、どうやら美味しいらしい。

少しずつだけど、飲んでいる。


「早く良くなってね、一緒に練習したいから」

と、部屋をスッと出ていった。


由紀は、うれしかった。

「アホの史にしては、気がきく」

「うん、身体が急にポカポカしてきた」

「なんか眠くなってきた」

飲み終えてベッドに入ると、一気に睡魔。

朝まで、咳も鼻水も出ず、眠ってしまった。


朝起きた由紀

「あれ・・・汗びっしょり」

「熱は・・・あれ?下がっている」

「身体も楽だ」

「咳も・・・あれ?出ないなあ」

と、ニンマリする。

汗を拭いて着替えて、それでも史に「ありがとう」を言おうと思って階下に。


由紀

「あれ?史は?」

と、母美智子に聞くと


美智子

「ああ、里奈ちゃんと学校に行った」

「それにしても、今朝は顔色がいいねえ」

と、驚いた様子。


由紀はあっけなさと、悔しさが微妙な状態。

それでも、思った。


「今夜もリクエストしよう」

「史にしては、上出来だ」

そう思いながら、久々に史に感謝しながら、登校したのである。









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