第238話カフェ・ルミエールのピンチヒッター

晃と美智子の申し出もあり、マスターは涼子の出産予定日三日前から、涼子に付きそうことになった。

最初は「そこまでしなくても」とマスターは渋ったけれど、大旦那からも連絡があったことから、それを受け入れた。

大旦那からは

「女と子供を大切にしてこそ、男だ」とあり、マスターは本当に感謝しきりである。

尚、そのマスターの代理として、かつて横浜のホテルでマスターのセコンドも務めた美智子が入った。

また、女性ばかりの夜の店も危険という話になり、音楽家の榊原氏と岡村氏が臨時のバイトを自ら申し出たのである。


榊原

「何しろウィーン留学時代は、バーでバイトをしたものさ」

岡村

「俺は、ミラノだった、けっこうモテモテだったぞ」

などと言い、それぞれ自前で給仕服を着込んでいる。

ただ、両方とも著名な音楽家であることは、馴染みの客に知れ渡っている。


そして結局

「何か演奏して」となり、クラシックからジャズ、シャンソン、カンツォーネまで様々演奏をする。


美智子

「こうなると音楽バーというより、ライブハウスだ」

美幸も、笑っている。

「毎晩でもいいかな、これは役得です」

美智子

「バーだから、静かに飲みたい人もあると思うけれどねえ・・・」

美幸

「でも、普段よりお客様が増えました、演奏目当てで」

美智子

「まあ、チャリティーで好きにやってくれるから、経費はかからないけれど」

美幸はクスッと笑う。

「マスター復帰までの期間限定ですから」


美智子と美幸がカウンターでそんな話をしていると、榊原と岡村がシャンソンの演奏を終えて戻ってきた。


榊原

「いや、金に関係しない音楽もいいなあ」

岡村

「うん、純でいい」

二人とも、ご機嫌である。


美智子

「今度、何かリクエストしようかな」

美幸

「そうですね、アルバイトは結衣ちゃんとか彩ちゃんに交代で頼んで」

「先生方は毎晩ミニコンサートでも」


岡村はうれしそうな顔になる。

「そうなると、内田さんもチャリティーで呼ぶかな」

榊原も頷く。

「ピアノとヴァイオリンと声楽か・・・いいかも」


そんなことで、ピンチヒッター仲間同士で話が盛り上がっている。

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