第236話涼子の出産を控えて

夜の八時、カフェ・ルミエールに晃と美智子が入ってきた。

マスターは、二人をカウンターの前に座らせる。


マスター

「トワイスアップでいいかい?」

と聞くと、二人とも頷く。


「マスター、ありがとう、何とかおさまって」

晃は、出されたトワイスアップを一口含み、マスターに頭を下げる。


マスター

「ああ、いいんだ、大旦那は史のことをほめていたよ」

マスターも自分用のトワイスアップを一口含む。


美智子

「マスター、ごめんね、私もあまりのことで、ついつい大旦那に話しちゃったの」

美智子は、まだトワイスアップに口をつけない。


「ああ、そうしたほうがいいかなと、京都へに転校を賛成したんだけど」


マスター

「いや、由紀ちゃんも言っていたけれど、史君はおとなしいけれど頑固だよ」

「曲げないことは絶対に曲げない」

「だから、信じていいと思うよ」

マスターの言葉に納得したのか、美智子もようやくトワイスアップを口に含む。


美智子

「まあ、見守るしかないかなあ」


マスター

「ああ、それも親の務めさ」

マスターは、ホッとした様子。


晃は、話題を変えた。

「ねえ、マスター、そろそろ涼子さんのご出産?」


美智子もマスターの顔を見る。


マスター

「うん、えーっと・・・来週あたり」

少し恥ずかしそうな顔をする。


美智子は、少し呆れ顔

「ねえ、もう涼子さんに付き添っていたほうがいいって」

「どうして来週あたりなんて言っているの?」

「だめだよ、そういうことじゃ」


マスターは痛いところをつかれたようだ。

頭を掻いている。


「何があるかわからないからさ」

晃も少し心配な様子。


美智子

「マスター、出産まで店を預かろうか?」

美智子は真顔になっている。


マスター

「えーっと・・・」

「まあ、料理の腕は大丈夫だけどさ、信頼しているけどさ」

「それじゃあ、悪いよ」


「だめだって、涼子さんははじめてで不安だと思うよ」


美智子

「任せなさい、私だってあのホテルでマスターのセコンドやったんだから」

「史がこの店の家族なら、私たちだって家族なの」


そんな話をしていると、美幸がキッチンから出てきた。

美幸

「わぁ、伝説の美智子さんと、お仕事できるんですか?」

「幸せだなあ!」


マスターは、肩をすくめている。

しかし、うれしそうな、ホッとした顔になっている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る