第227話悩みこむ史(6)
校長たちは新聞部の部室に入るなり、顔が真っ青になった。
校長
「史君!大丈夫か!」
史はうずくまって手首を抑えている。
その手首は真っ赤に膨れ上がっている。
由紀
「何があったの?史」
そう言いながら、史を抱きかかえる。
里奈は新聞部顧問の稲葉を見た。
「稲葉先生ですか?こんなことをしたのは!」
里奈は、稲葉顧問をきつく見据えている。
どうやら少し情報が入ったようだ。
史の担任は、史の周囲を取り囲んでいる他の新聞部員を見た。
一様に里奈の言葉に頷いている。
校長は稲葉顧問に尋ねた。
「稲葉顧問、事情を説明してくれ」
「少なくとも、史君はひどい怪我だ」
珍しく厳しい口調になっている。
稲葉顧問の顔も赤い。
まだ何か興奮しているのだろうか。
「はい、校長、これには理由があります」
「結果として、そこの史は怪我をしましたけれど、責任は史にあります」
とにかく自分には非がないことを先に言う。
しかし、周囲の新聞部員は、一様に首を横に振る。
史の担任の三輪も尋ねた。
「だから、稲葉顧問に非があるとかないとかの話ではないでしょう」
「まずは事の発端を教えてください」
「少なくとも、この部室での怪我ですので、あなたに全く責任がないと、どうして言い切れるのですか!」
三輪担任の顔も厳しい。
そこまで言われて、稲葉顧問はようやく説明をはじめた。
「ああ、問題は史の作業がまどろっこしいことです」
「大した記事でも無いのに、馬鹿丁寧に記事を書くので」
「こんなことでは、新聞の発行まで間に合わない」
「もっと性根を入れて最初から書き直せと」
「そうして叱ったら・・・」
稲葉顧問は一人の新聞部員の顔を見た。
そして
「あいつが、顧問たる私に向かって抗議をしてきた」
「史にばかり、記事を書かせるなと」
「ロクな記事も書けないくせに、私たちにも書かせろなどと言って」
「私も名誉ある本学園の新聞部顧問です、くだらない記事は一文字たりとも載せたくない、それを言ったら、この新聞部の阿呆どもが全員で・・・」
稲葉担任は新聞部員全員を睨みつけた。
そこで突然、新聞部部長の坂本が話しだした。
どうやら部員からそっと話を聞いていたようだ。
「そこで、稲葉先生と新聞部員が揉み合いになって」
「その中で史君が先生をかばおうとして倒れて・・・」
「稲葉顧問が史君の背中を払うよう押したんですよね」
坂本は厳しく稲葉顧問を睨んだ。
「それから倒れた史君の手首を、先生が思いっきり踏みつけたんですね」
「ドサクサにまぎれて・・・それも両手首を!」
周囲の新聞部員全員が頷いた。
しかし、稲葉顧問は、それを言われても、せせら笑っている。
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