第214話玉鬘講義(8)

晃は話を続けた。

「さて、玉鬘が、髭黒大将の突然のエジキになってしまった直接の原因は、玉鬘に仕えていた女房、弁のおもとです」

「この弁のおもとについては、玉鬘が京都に戻った際に、市女いちめの仲介で、にわかにかき集めた女です」

「ここで市女については、基本的には物売りの女になるのですが、就職の斡旋もしていたようです」

「人手の多い市で物を商い、行商などもする市女は貴族の屋敷の実情にも詳しく、そこから暇を出されてしまった女の情報にも詳しい」

「京都に戻ったばかりの玉鬘一行としては、なかなか父の頭の中将のもとにも出向けず、そうかといってロクな知り合いもなく、市女に斡旋してもらうしか、女房を探す手立てがない」

「ただ、昔から主人を思い仕えてきた女房と、市女が紹介する女房では、もともとの動機や質も残念ながら違うのでしょう」

「結局、弁のおもとは、髭黒が内緒に渡す金品の多さに、なびいて玉鬘への手引をしてしまった」

「弁のおもとは、残念ながら、玉鬘自身への忠孝意識というよりは、金品になびくタイプだったのでしょう」

晃がそこまで話すと、聞いていた客が、残念そうにため息をつく。


晃はまた、話を続ける。

「まあ、あそこの段階で玉鬘が髭黒のエジキにならずに、宮中の内侍所にいたとしても、それはライバルも多いですし、ましては実父の娘も宮中にいたわけですから、複雑なことになったのだとは思いますね」

「玉鬘にとっては、最初は九州の土豪のようなゲンに求婚され、都に出れば蛍宮とかの繊細系の宮様にも求婚され、最後は迫力系の髭黒のエジキになってしまった」

「まことにもって、不思議である意味残念ではあるけれど・・・」

晃は、ここで一息。

すぐに由紀が飲み物を差し出す。

「いろいろ深い意味はあるけれど、光源氏のような繊細で華やか系のキャラを打ち破って、迫力系が登場したことは事実」

「紫式部は、そういうキャラを書きたかったのかなあと」

「繊細系が多い源氏物語も、そういう現実にいそうな迫力系キャラをいれることで、物語の厚みが出るのかな、そう捉えています」

「他には・・・」

晃は、少し史の顔を見る。

その史は、首を横に振る。

晃は少し笑う。

「他の周囲の人の話をしだすと、終わりません」

「ですから、今夜はこれくらいで・・・」

晃は、由紀を見た。


由紀は顔を真っ赤にして

「はい!これからデザートを出します!」

そこで、客全員が立ち上がって、晃、史、由紀に大きな拍手となった。


さて、デザートは何だろうか。

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