第211話玉鬘講義(5)

由紀と里奈、奈津美はそのままキッチンに入った。

マスター

「ああ、試験前でごめんね、由紀ちゃん」

そう言いながら、紙包みを開ける。

美智子も紙包みから出てきたものを確認する。

洋子や結衣、彩、美幸もキッチンに入ってきた。

洋子

「うん、いい出来」

他のメンバーも頷いている。

由紀

「ありがとうございます、これは最後ですね」

ニッコリとしている。

美智子は

「聞いていきなさい、せっかくだから」

由紀は

「うん、史が危なっかしいから、手伝う」

ということで、残っていた柿の葉寿司を食べる。


由紀が満員の客を書き分け、史の隣に立つと

「試験大丈夫?」

由紀

「試験より史が心配」と強めの口調。

同じくかきわけてきた里奈も、ハラハラしている。


さて、晃はそんな姉弟のことなど、かまってはいられない。

「それでは、軽食も済んだということで、玉鬘の続きをはじめます」

「玉鬘は、大宰少弐と一緒に九州に下り、当時から言えば田舎での生活」

「生活そのものは安定していたようですが、なかなか京都に戻る手立てがない」

「そのうえ、大宰少弐は赴任地で死んでしまい、それにかこつけたのか、地元の有力者に強引に、またしつこく求婚されてしまう」

「ただ、求婚といっても、実体は数ある愛人の一人程度で、これには玉鬘お付きのものも、ヘキエキ状態」

「お付きのものも、大宰少弐の長男以外は九州で結婚したり、子供がいたりで、長年の九州暮らしに根付いてしまっていて、なかなか脱出は難しい」

「それでも、もう、玉鬘も絶対イヤなので、無理や危険を押して、京都からお付きで下ったものも、散り散りになった状態で、舟で京都に逃げ帰ったのです」

晃は、ここで一息をつく。

すると由紀がさっと、冷たいほうじ茶を晃に差し出す、

晃はゴクリと飲み干し

「うん、ありがとう、美味しいよ、由紀」

やさしく笑う。

由紀も、うれしそうな顔になる。


「そこで、京都にいても、なかなか暮らしの目途が立たない」

「幸い手持ちのお金が少々あったから生き延びたけれど」

「母夕顔の付き人の右近も、どこに行ったのか行方もわからない」

「あちこち万策尽きかねて、とうとう長谷寺に全員が参拝をするのです」

晃はここで一呼吸する。

「まあ、ここまでが、玉鬘の人生の本当につらい時期なのです」


マスターがつぶやいた。

「本当に他人に振り回されるだけの人生だね」

「母は、生霊に殺され、何もわからず九州に行って」

「地元の親分みたいな男の、愛人にされそうになって」

「まあ、それも京都のハクをつけるだけさ」

「それで、京都からの仲間を散り散りにして、京都に逃げ戻る」


美幸がクスッと笑う。

「さて、ここからが、にゅうめんから発展した話ですね」

マスターは頭をかいている。


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