第212話玉鬘講義(6)

晃は、話を続けた。

「さて、最後の望みで、玉鬘一行は、長谷寺にご参拝」

「今でもそうですが、山道やら階段でかなりな辛さもあります」

「しかも、門前で宿を営んでいた法師には、玉鬘一行のくたびれた風体を観察され、小馬鹿にされるという屈辱も受けます」

「まあ、いつの世も、僧侶は風体で人を判断する」

「お布施の額で、人の値踏みをする」

晃が小声で言うと、客の中からクスクス笑う声がする。

どうやら、同じような思いがあるようだ。

晃は、話を続けた。

「そこで、やはり、長谷観音の御功徳なのでしょうね」

「かつて玉鬘に使えていた右近に、バッタリ」

「そして、結局、源氏も迷ったのですが、源氏の養女として、源氏のもとに引き取られることになる、そこで一応、暮らしとしては安定を見ます」

晃がそこまで言うと、史が耳元で何か言う。

晃も頷き

「そこで、何故、本来の父である頭の中将に引き取らせなかったのか」

「ここにも、源氏物語の大きなテーマが込められています」


晃の言葉に客の目が集中している。


キッチンから出てきたマスターポツリ。

「晃さん、あの話をするのかな」

美智子も

「うん、避けては通れないね、まあ短い時間でどこまで」

「説明も難しいなあ」

洋子も

「うん、すごい人間関係というのか」

様々、つぶやいていると晃が話しだした。


「源氏物語のテーマの一つとして、継子の問題があります」

「当時は一夫多妻の時代」

「ということは、継子というものは必ずといっていいほど、できます」

「また、幼くして母親に死別する子も多かった」

「まず、光源氏、紫の上、玉鬘、女三の宮」

「死別ではないですが、母親から離されてしまったということで言うならば、明石の姫君」

「かなりな主要メンバーと思われるでしょう」

「その意味において、源氏物語の底流には、継子の幸せの問題があるのです」


晃は、由紀から冷たいほうじ茶をもらい、再びゴクリ。

白熱した講義が続いている。

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