第202話マスターと美幸(2)

マスターは遠くを見るような表情になった。

「長谷寺といえば、長い階段をのぼって、観音様がいて」

「山にあるから眺めがよくて、紅葉の時期は最高」

「古来、修行の場所ではあるけれど・・・」

「時々、浮世を忘れて行きたくなるなあ」


美幸は

「私もそんな感じです」

「枕草子とか源氏にも出てきますし」

「源氏でいうと、特に玉鬘ですね」

そんなことを言って、マスターに話を振る。


マスターは、ふふと笑い

「へえ、美幸ちゃんも読んでいるねえ」

うれしそうな顔になる。


美幸は

「まあ、すごいシンデレラストーリーですね」

「明石の君もいいけれど、私は玉鬘のドラマも好きです」

「お母さんの夕顔は、ともかくとして」


マスターは

「そうだねえ、母親は源氏との房事のあと」

「死霊にとりつかれたんだよね」

「その娘が玉鬘」

「父親の頭の中将もしっかりと捜さず見捨てられていて」

「はるばる九州に下り、地元で危うく結婚させられそうになって、命からがら都に戻るか・・・」


美幸も続いた。

「それで、貧しい身なりのまま、望みをかけて長谷寺に参拝」

「そこで・・・門前宿を経営する法師には馬鹿にされるけれど」

「今は源氏に使える右近に出会って・・・」


マスターは

「にゅうめんから、違う話になってしまったねえ」

苦笑する。

「そしてね、夕顔に取り付いたのは、六条の御息所じゃないいうのは知っている?」

そんな含み笑いもしている。


美幸は

「え?・・・ああ・・・そうかあ・・・」

少し思いついた様子。

そして

「私も、源氏講義を聴きたいなあ」

「地下のホールじゃなくて、もっとコアな話を」


マスターは考えた。

「うん、小さなお話会もしてもいいかな」

「晃さんに連絡をしてみるよ」


どうやら、プチ源氏セミナーが、開かれそうである。

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