第167話カフェ・ルミエール楽団演奏会(完)

カフェ・ルミエール楽団演奏会の三曲目は、ブラームスの交響曲第二番。

これは指揮者の榊原が流麗に指揮し、華やかなフィナーレで聴衆を魅了した。

榊原が再び万雷の拍手を浴びて舞台袖口に戻ると、次には聴衆からのアンコールとなる。


そして、そのアンコールに応えて出てきたのは、榊原と史。

二人並んでお辞儀をすると、再びホール全体、聴衆から万雷の拍手を受ける。


「・・・何の曲をやるのかな、榊原先生」

「イタリアオペラのカヴァレリア・ルスティカーナって聞いたよ」

「うん、それを練習していたよね」

「まあ、無難かなあ」

女子音大生たちが、つぶやく。


しかし、その「無難」に異変が起きた。

榊原は指揮台にはのぼらない。

榊原が史の背中をポンと叩くと、舞台袖口に戻ってしまった。

そして、なんと史が顔をあからめて指揮台にのぼってしまった。

史が指揮者として、「カヴァレリア・ルスティカーナ」を振り出したのである。


「ほお・・・ゆったりとなめらかに、しかも音楽が大きい」岡村

「あら・・・ベートーヴェンとは全然違う、大らかで、また違うロマンが」内田

「いやいや、すっごいねえ・・・うっとりだ」山岡

「楽団員も一糸乱れず、史君の指揮にひきつけられ」尾高

「うん、我々も聴衆も、史君に酔っている」斎藤

最後の斎藤の言葉通りだった。

ここでも史の音楽に聴衆全体が魅了されてしまったのである。


そして、史は演奏終了と同時に、今度はホールが割れんばかりの拍手に包まれてしまう。

再び袖口から出てきた榊原も本当にうれしそうに史と握手をしている。

また、その二人にも、大きな拍手が浴びせられたのである。



「ふぅ・・・なんてことを・・・」

母美智子は、またオロオロ。

「史のアホ!何も言わないから!」

由紀は泣きながら怒っている。

奥様も感激したのか、泣いている。

御大は、席を立ち、ステージにいる史の所に歩いて行く。


御大は、榊原に手招きをされ、ステージに上った。

そして楽団員、榊原に頭を下げ、史の肩を抱く。


御大は史と榊原と並び、聴衆に御挨拶。

「本日は、カフェ・ルミエール楽団の初めての演奏会、熱心に聞いていただき、本当にありがとうございます」

「これからも、この楽団をどうか応援してください」

「本当にありがとうございました」

御大が深々と聴衆にお辞儀をすると、史や榊原、楽団員全員が立ち上がり、それにならう。

そして、また大きな拍手がわきあがったのである。



さて、カフェ・ルミエール楽団の最初の演奏会は、このように大成功に終わった。

大満足で帰った聴衆からは、次の演奏会の予定への質問が、本当に多く寄せられている。




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