第115話史の合唱部練習参加(3)
史が合唱部を指揮しての練習も一応終わった。
練習が終われば、合唱部員も帰ると思うのだけど、どうやら全員が残っている。
それには、合唱部顧問の岡村や由紀、史も「?」である。
そんな状態の中で、合唱部の一人から声がかかった。
「岡村先生、そして史君!」
「史君の歌うのも聞いてみたいんだけど」
そして、その言葉と同時に、またしても大拍手である。
「え~~~?ピアノに指揮に・・・歌?ここって何?」
あまりのことに、史は由紀を見て「ムッと」した顔を見せる。
「しらないわよ!そんなの聞いてないし!」
由紀は、ますます不機嫌な顔になる。
しかし、由紀も合唱部の部長である。
合唱部全員をまとめなければならない。
「あのね、今日の指揮は、岡村先生の指示だから、いいけどさ」
「歌は、よした方がいい」
「史は、小さい頃は一緒に歌ったけど、最近はそういうことないし」
「だから、みんなあきらめてね」
由紀としては、「史なんか」に歌わせたくはないのである。
そして史も「姉貴の前なんて嫌だ」で、その口を「への字」に結んでいる。
ただ、合唱部員たちの期待は、なかなか収まらない。
「えーーー?聞きたいよね!」
「部長は横暴だ!」
「一曲ぐらいいいでしょ?」
「下手だったら、すぐに止めるからさ」
・・・・なかなか、話が進まない。
合唱部顧問の岡村も、ちょっと呆れていたけれど
「しょうがないなあ、一曲だけ、なんでもいいや」
「俺がピアノ弾くからさ」
どんどん歩いてピアノの前に座ってしまった。
そして弾き出したのは、バッハ=グノーの定番「アヴェ・マリア」。
すると、史にしては珍しい反応がおこった。
「しょうがないなあ・・・」
ちょこっとブツブツ言ったものの、そのまま、岡村の伴奏で歌い始めてしまったのである。
「う・・・マジ?声・・・きれい・・・」
「高音が伸びるし、低音も決まる」
「なめらかで・・・しっとりで・・・」
「歌声にも史君フェロモン?」
「うーーーデュエットしたいよーーー」
「ねえ、その順番決めようよ・・・」
「あみだくじ?」
よくわからない反応もあるけれど、聞いている女子学生全員が、超ウットリ。
そんな状態で、史のアヴェ・マリアが終わった。
当然、大拍手に包まれる史である。
元プロ声楽家の岡村も、本当にニッコリとしている。
かなり満足したようだ。
しかし、姉の由紀も、これには感心してしまった。
「悔しいけれど、上手だった」
「史をバカにしていて悪かった」
「でも・・・一曲だけっていったし」
史がピアノのところから歩いてくると、小声で「ゴメン、上手だった」。
でも、史は、まだ「ムッと」している。
岡村顧問から、史に再び声がかかった。
「史君、これからはちょっと遊び」
「史君がピアノを弾いて歌って欲しいなあ」
「何でもいいよ」
「あ・・・はい・・・」
今度は、史も抵抗しない。
岡村顧問がピアノから離れると、素直に座った。
何故か、ちらっと由紀を見た。
そしてピアノを弾き歌いだしたのは、なんとエリック・クラプトンのバラード
「ティアズ・イン・ヘヴン」
「ほーーー・・・いいなあ・・・」岡村顧問
合唱部員からは
「うわ・・・しっとり」
「癒される・・・史君っていいな・・・惚れちゃう」
「泣けてくる・・・上手過ぎ・・・」
「ピアノなの?指揮なの?歌なの?悩ませる・・・」
「でもあれ?部長・・・」
「部長、泣いてる・・・」
合唱部員が驚いたのは、強気で鳴る由紀が泣いてしまっていること。
「・・・史のバカ!こんなところで、一番好きな曲を・・・」
「父さんと母さんの一番好きな曲で、私の一番好きな曲だよ」
「そういえば、史と歌ったなあ、父さんと母さんの前で・・・」
「あの頃の史は可愛かったなあ・・・でも、今も声きれいだ・・・ずっと隠してて気に入らないけど」
「私も歌いたいよ・・・でも・・・」
「一緒に歌いたいけど、泣いちゃって歌えないって・・・」
由紀は、しばらく泣きやまなかった。
全てが終わって、史と由紀は珍しくケンカをしないで帰った。
一緒に歩く里奈は、少しホッとした顔になっている。
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