第105話史の合唱部取材(2)

放課後になった。

新聞部のスケジュールに従って、史は合唱部の取材をしなければならないし、由紀は合唱部の部長として取材を受けなければならない。

珍しく顔をしかめて椅子から立ち上がった史に里奈が声をかける。

「ねえ、由紀姉さんを大切にね、私、すごく心配なの」

史は、少し戸惑う顔になるが

「大丈夫だよ、取材は取材だから」

そして、そのまま教室を出て、合唱部が練習する音楽室に向かった。


「さて、いつも通りでいいや」

史は、由紀との「険悪な関係」はともかく、「私情」を持ち込んではならないと思った。

合唱部にいるのは、姉の由紀だけではないと思うことにした。


「失礼します」

いつもの取材のように、キチンと挨拶、お辞儀をして、音楽室に入った。

途端に待ち構えていたのか、大歓声。


「わーーー!史君だ!」

「可愛い!」

「いい雰囲気!」

「お肌も白いし!しっとり系だあ!」

「早く取材してーーー!」

そんな、すごい歓声を受けて、史は少しビビる。

それでも、気になるのか、姉の由紀を探す。


「合唱部長様、いらっしゃいますか?」

史にしては、張りのある大きな声。


由紀も、そういう声を出されたら文句は言い難い。

少し「シブシブ目」の顔で、歩いてきた。


史は、歩いてくる由紀に少し近寄り

「まずは、練習を拝見させていただきます」

「その後は、合唱部長様と、数人の方にインタヴューさせていただきます」

「合唱部のインタヴューですから、部長様以外のインタヴューは各パートのリーダーさんにお願いをします」

と、予定を告げる。

これも、例年の「打ち合わせ通り」である。


由紀としても、「こう、まともに来られると」、文句も言えない。

「はい、それではおまかせします」

と、応えるしかない。

それでも内心

「史のやつ・・・よそ行きの顔して・・・ああ、気に入らない」

「なんか変な質問したり、ヘマしたら家に帰って、メチャクチャ叱ってやるんだから」と思っている。




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