第106話史の合唱部取材(3)
史が見守る中、合唱部の練習が始まった。
練習曲はモーツァルトのレクイエムの中の「ラクリモサ」。
繊細にして崇高さにあふれる合唱曲の中でも、白眉の曲である。
音楽室は、しばし、天使のいる空間となった。
そのラクリモサの練習も終わり、部長の由紀が目配せをしてきたので、史は「新聞部」としての取材をすることになる。
「今回のコンクールに向けての抱負」
「練習において苦労しているところ」
「好きな合唱曲、取り組んでみたい曲」
「学園内に向けた合唱部としてのメッセージ」
・・・・・・・
史は、様々、事前に文書にて申し込んであった「定番の取材項目」で、丁寧に聞き取り、メモを取る。
そして、その態度は部長の由紀にしても、他の合唱部員に対しても変化はない。
姉の由紀としては
「史のやつ、しらばっくれて!」と思うけれど、聞き出されると、どうにも「素直にポンポンと」話してしまう。
「これが聞き出し上手って評判か・・・ちょっと気に入らない、それが女どもが群がる原因だ」と思うけれど、由紀自身が話し出すと止まらないタイプだ。
結局、他の合唱部員に「ねえ、変わってください」「私も史君とお話したい」と言われるまで話してしまい、変わるしかなかったのである。
「あいつら・・・史なんかに、顔を赤くして」
「ああ、気に入らない、まだ、ノーミスだし」
「弟のくせに、軟弱の史のくせに」
由紀は、そう思うけれど、とにかく史の周りに合唱部員が「群がって」しまい、どうにもならない。
「はい、これで、なんとかまとめます」
ようやく取材を終えたのか、史がチョコンと立ち上がった。
そして全員に声をかける。
「それでは、コンクール頑張ってください」
「必ず、応援に行きます」
「いい記事を書けると思います」
またしても、史にしては珍しい張りのある声。
由紀としても
「はい、ありがとう」
と応えるしかない。
そして、史も由紀も、これで音楽部から、史が姿を消すと思った。
ある意味、「ホッと」した。
・・・しかし、そう簡単には、話が進まない。
なんと由紀を除く合唱部全員から、史に声がかかったのである。
「史君!」
「私たちからもお願いがあるの!」
史も由紀も、何が何だか、さっぱりわからない。
同じ顔で、キョトンとなっている。
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