第98話カフェ・ルミエールの新メニュー(4)

「誰か」と電話を終えた洋子は、涙ぐむ由紀に声をかけた。

「ねえ、由紀ちゃん、今度、由紀ちゃんの家に、夜遊びに行くことになったよ」


洋子が、そんなことを言うものだから、由紀は目を丸くする。

「え?洋子さんが?」


「うん、美智子さんの新作研究に参加するの」洋子


「え?マジ?」由紀


「だってさ、史君もいるしさ、お父さんだってよく知っているしさ」洋子


「まあ、それは家のキッチンは広いから、何とか出来るけれどさ」由紀


「美智子さんも楽しみって言っていたよ」洋子


「マジ?あーーーーどうしよう・・・」

由紀は、少し動揺している。


「うん、実はね、私も美智子さんと同じこと考えていたからさ」

「和風洋菓子か洋風和菓子とか、新作を考えていたの」

「そうなると、美智子さんとなら、面白いの作れそうだもの」

「そのうえ、史君でしょ?お父さんだって味覚はすごいよ」

洋子は、そこまで言って、キッチンの奈津美にも声をかけた。

すると奈津美も、話を聞いていたらしい。

すぐに出てきた。

「うん、楽しみです!親方も誘います」

「マカロンの餡に、柚子とか梅とかもいいなあと、言っていましたし」

奈津美も、完全に乗り気である。


「ああ、餡じゃなくても、皮に上手に混ぜて、餡はまた工夫するとかさ」洋子

「へえ、お饅頭の中に、フルーツサンド風クリームとかは?」奈津美

「わ!バランス次第で面白いかなあ!」洋子

「和洋折衷じゃないけどさ、トルコ風柚餅子でね、ロクムとか面白いかも」奈津美

「うーん・・・作りきれないって!」洋子


盛り上がる和洋の菓子職人二人を、あっけにとられて見つめる由紀である。

すでに、怒り顔も涙顔も、何も消えている。


思うことも変化した。


「私も、何か一つなあ・・・」

「せめて、アホの史と美智子に文句を言われない程度のお菓子だ・・・」

「・・・唯一の味方の、父に相談するとしよう」

由紀の顔は、ここでようやく落ち着いたのである。


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