第88話史と里奈(1)

カフェ・ルミエールに、里奈は真っ赤な顔で入ってきた。

「はい、いらっしゃいませ」

洋子は、にっこりと里奈を迎え入れる。

そして里奈に目配せ、つまり「史が待つテーブルへ」の合図である。


「ごめんね、史君、急に柔道部話し合いで」

里奈の顔は、ますます赤くなる。


「ああ、しょうがないよ、大会近いしさ」

史は、少し微笑んでいる。


「さっき、お姉さんに聞いたんだけど、水泳部は大丈夫だったの?」

里奈は、史がグラマーの良香から走って逃げたのが、気にかかっている。


「うん、取材が終わったんだけど、水着のままで良香さんが、両腕を広げて近づいてきたの」

「でも、意味がわからなかったし」

「じゃあって言って」

「里奈ちゃんに話したいこともあってね」

史は、相変わらずハンナリである。


「むむ・・・良香さん・・・ハグしようと思ったんだけど」

「史君は、気づいていない」

「ある意味、鈍感?」

「でも、私に話ししたいことって?」

「ちょっと、うれしいのと不安と・・・」

里奈は、複雑な表情になった。


「あのね、里奈ちゃんには、いろいろ助けてもらったから」

「お礼で、ケーキを焼いたの」

今度は史が洋子に目配せ。


洋子は、史に頷き、キッチンに消えた。

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