第68話史の回復と結衣(3)

史自身は、自分に関心を寄せる女性たちの想いなどは、実はよくわからない。

里奈と登下校を一緒にしているのも、話をしていて楽しいということだけ、コンサートへの誘いも、「困った時に助けてくれた、お礼ぐらいはしないと」程度である。


だから、今日月曜日の結衣との「デート」も、「ただ誠実に源氏の話とか本探しに付き合う」であって、それ自体が「恋愛とか何とか」ではない。


ただ、史と神保町の本屋街を歩いている結衣としては、そうはいかない。

「本は、史君に任せるとして、どこかオシャレな喫茶店がないかなあ」

「できれば、テーブルも広くて・・・」

結局、キョロキョロと探すことになる。


「うん、わかりやすい本としてはね」

「日向一雅さんの源氏準拠論とか・・・大塚ひかりさんの訳が面白いよ」

「ネットでも買えるかもしれない、でも売っているはず」

史としては、誠実に本を探した。

馴染みの書店もあるらしい、確かに口に出した本はゲットすることが出来た。

「うん、さすが、本の聖地だ」

史も、ホッとした様子になる。


結衣としては、「万が一でもここでじゃあ・・・」という訳にはいかない。

喫茶店に入るにしても、「カフェ・ルミエール」だけは避けたい。

史を求めて、「手ぐすね」引いている輩だらけだと思う。


「ねえ、史君、この街詳しいみたいだから」

「どこかで、休憩しようよ」

結衣は、結局自分では店を見つけられない。


「はい、それじゃあ」

「あそこに、文房堂って、文房具屋さんがあるんだけど」

「そこの三階の喫茶室がきれいで、絵も飾ってあるので」

史の反応も早かった。


「えへへ・・・やっと・・・一人占めだ・・・」

「なんか。ドキドキだぞ・・・」

結衣は、まさにニンマリ顔になっている。

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