第37話史の柔道(8)一応の決着

史の事情は、パテシィエの洋子からマスターや涼子の耳に入った。

マスターも本当に心配そうな顔になった。


「ああ、そうか、史君ならあり得るなあ」

「自分を追い込んじゃうんだ、他人に気を使って」

マスターはいろいろ考えている。


涼子も同じように心配になった。

聞いた時点で、史の母美智子に連絡を取る。

「取りあえず足首がしっかり治るまで、日曜日のバイトはいいよ」

「それより、まだ落ち込んでいる?」

母美智子からは

「うん、やはり痛いのかな、元気はないよ、それと、足首ギブスだから、いろいろ不便みたい」

「ごめんね、心配かけちゃって」

「ほんと、意気地がなくて、イライラしちゃうけど」

やはり、少し不安があるようだ。



結局、その晩は、誰も何もできなかった。

ただ少しだけ、明るい兆しと言えば、史が里奈の迎えの申し出を断らなかったことだけであった。




翌日の朝、約束通り、里奈が史をお迎えに来た。

姉の由紀と母の美智子は、少し恐縮している。


「ごめんね、わざわざ、私だけでも十分だよ」由紀


「ねえ、全くちょっと怪我したくらいで意気地がない」美智子


いろいろ里奈に頭を下げるものの、里奈は、ニコニコして史を待っているだけである。


「あ、ごめん、待たせちゃって」

それでもようやく史が玄関前に顔を出した。

松葉杖で、まだまだ動きがぎこちない。


「史君、おはよう!大丈夫?」

里奈は、史の横に立ち、さっと身体を支える。

母美智子も姉の由紀も手出しができないほどの俊敏さである。


「ああ、ごめん、申し訳ない」

史も、支えられたら、任せるしかない状態。

結局、史は里奈に時折手助けをされながら、登校することになった。


その二人の姿を見た、由紀と美智子の会話。


「うん、里奈ちゃんって、史君にはいいかも」由紀

「可愛いし、気が利くし、動作も早いねえ」美智子

「あの子なら、少し任せたいなあ」由紀

「なかなかできないことをしてくれる、ありがたいねえ」美智子

「あとは、学園内でもめなければ・・・史君モテるの」由紀

「え?それ・・・マジ?」美智子



そんな状態になり、一応の決着がついたようだ。

まだまだ、先はわからないけれど・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る