第23話史のピアノレッスン(1)

史は、カフェ・ルミエールの楽団と学園内の音楽部の練習に参加することになったため、少し考え、かつてピアノを指導してくれた春奈先生の所に出向いた。

元プロで、年齢は35歳、かつては美人ピアニストとして有名だった。


「そうなんだ、ピアノまた始めるんだ」

春奈は一旦微笑んだ。

しかし、すぐに表情を変えた。


「でもね、史君、本当にやる気があるの?」

「それはね、コンクールの後で、ひどいことを言って来た先生が、史君の学園の音楽顧問だったという事情はあるけれどね」

「史君は、その言葉に負けたんだよ」

「それは自覚しているよね」

「新聞部が悪いって言っているんじゃないの、その後、音楽を全て放棄してさ、私のレッスンも来なくなった」

「そのことは、どう考えているの?本当にやる気があるの?」

春奈の追及は、本当に厳しい。

史は顔を下に向けてしまい、まったくあげられない。


春奈は言葉を続けた。

「だから本気にやるんだったら、そのためのレッスンをする」

「適当に趣味程度にやるんだったら、別に私の所なんて来なくていい」

「自分一人で、勝手に練習したらどう?」

「私、史君とだったら、本気に指導したいの」

「そうじゃなかったら、もう、帰って!」


史は顔をようやく上にあげた。

珍しく「ムッと」した顔になっている。

「僕は、本気の音楽とそうじゃない音楽って、わかりません」

「先生が、そうやって音楽のことを言うとは知りませんでした」

「僕は先生の音楽が好きで、もう一度教えてもらおうと思って、怒られると思ったけれど、ここに来ました」

「でも、そこまで言われるのなら、帰ります」

「お時間取らせて申し訳ありませんでした」

それでも、キチンとお辞儀をして帰ろうとする。



春奈はここで焦ってしまった。

まさか、言葉通りに帰るとは、思っていなかったのである。

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