第17話史の悩み(3)
午後3時半、史の担任と史の姉由紀が、カフェ・ルミエールに来店した。
喫茶部チーフでパテシィエの洋子も、二人の難しい雰囲気がわかったのか、カウンターの奥の席に二人を誘導した。
「とにかく、他の人には聞かせづらい話でしょ?少し聞いていてもいい?」
洋子の問いかけに二人とも素直に頷く。
冷静な人に聞いてもらいたい様子もある。
洋子も少し離れて聞耳を立てる中、二人の会話がはじまった。
「おそらくね、音楽部顧問先生は、中学の時のコンクールのことを根に持っていると思うんです」由紀
「根に持つって?」担任
「うん、つまりね、音楽部顧問の先生の指導した生徒は、本番で大ミスして選外、史君は実力発揮で1位優勝」由紀
「それは仕方がないんじゃない?ミスしたら選外になるのは当たり前」担任
「ああ、でも、それが納得できないのが、あの音楽顧問先生です、とにかくプライドだけは高いし、他の人の音楽性は全く認めない」由紀
「どちらかと言えば、史君の音楽はナイーブできれいな感じだよね」担任
「そうですね、史君の性格もあるけれど・・・でも音楽部顧問は、叩きつけるような圧倒的な音楽が好き。ベートーヴェンとショパンの違いかなあ」由紀
「そうなると、ナイーブな史君が本番で上手にやってしまって、自分の弟子が荒過ぎて失敗して・・・でも、それは・・・逆恨みでは?」担任
「表彰式の後も大変でした、音楽部顧問が史君に怒って」由紀
「1位の人をどうして怒るの?」担任
「だから、音楽性の話です、そんな小賢しいテクニックばかり磨きやがってって・・・たくさんの人の前で怒鳴って・・・それからです、史君が落ち込んだのは」由紀は顔を曇らせた。
「逆恨みの、パワハラ、モラハラ?・・・呆れる人だねえ・・・」担任
「史君は家と、このカフェ・ルミエールではピアノを弾くけど・・・まあ、新聞部も向いているとは思うけれど。何かねえ・・・可哀そうでね」由紀
「問題はね、今の史君の評判が高まり続けた場合の、音楽部顧問の反応だよね」担任
「情熱のあまりって話だけど、怒鳴り声が聞こえて来る練習です、みんなやめたがっている」
「史君を今でも嫌っているし、そんな噂が耳に入ると、ますます暴力的な指導に拍車がかかるかもしれない」由紀
話が続いている中、洋子が二人の前に立った。
「まあまあ・・・フランボワーズを召し上がれ」
「お茶はダージリン」
そして二人にウィンク。
「後は任せてね」
そして、そのまま誰かに電話を掛けている。
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