第5話マスターの不安と安堵
ようやく、午後6時、カフェ・ルミエール喫茶部の営業初日が終わった。
何しろ、史の通う学園の生徒や教師、地域の人々まで、ひっきりなしに来店した。
全56席も、常に満席状態、繁忙を極めた状態が続いたのである。
「ふう・・・洋子さん、ありがとう」
マスターは、パテシィエにして、喫茶部チーフの洋子に、ねぎらいの言葉をかけた。
「いえいえ、これほどケーキとかお菓子を売ったのは初めてで、楽しかった」
洋子も、目一杯動いたせいか、顔が上気している。
マスターの妻、涼子もやっと椅子に腰をおろした。
「うん、あのアルバイトの二人がよく働いてくれたし、助かったなあ」
「若いっていいねえ」
その言葉には、マスターも洋子も納得らしく頷いている。
「ただね、心配なのは史君なの」
洋子がマスターの顔を見た。
マスターもわかっていたらしい。
「ああ、客の前では、ニコニコしていたけれど、痛そうだった、ちょっと心配だな」
涼子も同じ考えのようである。
「何しろ、足首だからさ、しっかりなおさないといけない」
洋子も顔を曇らせた。
「それは珈琲を淹れるのが上手とか、史君の人気で客が増えるってこととは、関係ないね、下手をすると一生に関わる」
マスターは、ため息をついた。
「それで、頑張ってしまうのが史君なんだなあ・・・それは困るなあ」
そんな話を三人でしていると、店に電話がかかってきた。
「はい、カフェ・ルミエールです」
涼子が電話を取ると
「今日はありがとうございました。史です」
史からの電話だった。
マスターが、涼子から受話器を受け取った。
「ああ、史君、こちらこそ、ありがとう。それより足首はどうだ、痛くはないか?」
マスターは、みんなの不安を直接伝えた。
「はい、多少は痛むけれど、大丈夫です、心配には及びません」
「それから、姉がちょっとお願いがあるそうです」
史から姉に変わった。
「はい、マスター、由紀です、お久しぶりです」
「今度、史君と一緒にアルバイトしたいけど、どうでしょうか」
「それから、私の合唱部仲間もアルバイトしたいし、歌とか音楽をしたいって言っていますけれど」
マスターは、すぐに承諾した。
そして、ホッとした。
「ああ、由紀ちゃんは、そもそも史君の珈琲と紅茶の指導者さ」
涼子は、うれしそうな顔になった。
「うん、由紀ちゃんは、何より可愛いし、ハキハキして気持ちがいい」
「合唱部のみんなが手伝ってくれると、大助かりだね」
洋子は、少し別のことを言った。
「お姉さんの由紀さんとしては、帰って来た史君の状態に不安を感じたのかな」
「それで、手助けをしようとって、ことかな」
マスターも涼子も、その意見には頷いた。
「これで、史君の負担も減る、まあ、ひどいことにはならないだろう」
「もっと上手な医者を・・・」
マスターがそこまで話すと、涼子がすぐに電話をかけている。
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