Ultimate anxiety (究極の不安)

 次はまた髪の毛だった。前にトイレで見つけたのと多分、同じ人。色、長さ。

 シャワーヘッドとホースの間に巻き付いていた。ゆっくりと外して見る。ヘビメタの友達とは、よっぽど気があったんだね。どちらかというと人見知りなあなたにしては珍しいね。友達を家に連れてくるなんて。バンドのメンバーも連れてこないのに。うちでシャワー使ってもらうくらい仲良しのヘビメタの友達。音楽談議に花が咲くってやつかな?それで帰れなくなったんだ、きっと。

 考えている間にちょっとのぼせてしまった。赤い顔で出て行って、

「のぼせた・・」

 って言ったら、冷蔵庫からお水を出してくれた。ほら、優しい。

 自分もシャワーを浴びに行く。私はいつものように、こっそり脱衣所に行って彼の眼鏡を・・。

 脱衣所のスライドカーテンを開けたとき、シャワーの音に交じって、あなたの鼻歌が聴こえた。私の知らない曲。眼鏡を握りしめてなぜか涙がでた。しばらく動けなかった。

 気配に気づいたのかもしれない。歌が止まってシャワーの音だけになった。それがなぜか哀しさを助長する。

 それでもいつものように、眼鏡を持ってベッドへ。涙を拭いて、髪を乾かして、ボディクリームを塗ってドライヤーをあてる。こうすると肌がスベスベになるんだ。あなた好きだって言った。ボディクリームの微かな桃の香りも。

 シャワーの音が止まった。もうすぐ出てくるね。いつもの目をしてね。いつもみたいに言ってね。私だけが知ってるあなたになってね。私しか知らないあなたになってね。

 ヘビメタさんは眼鏡、隠さないでしょ?そんなイタズラしないでしょ?大人の男性なんだから。


 いつものように、私が隠した眼鏡を見つけてかけながらあなたが言った。

『この眼鏡、やっぱりちょっと緩いんだよね。ちょっと視力落ちた。』

 そうなんだ。私は子供のころから視力だけはいい。だからわからないんだ、あなたが裸眼で見る景色。どんな風なんだろう。眼鏡をかけても今の私とは違う見え方をしてるってことだよね?どんな風に見えてるのかな?

 コンタクトを着けて私と同じくらいの視力で見る景色と、眼鏡で見る景色、それから裸眼で見る景色。あなたは3つの景色を持っているんだね。私はひとつしかない。あなたしか見えない。あなたは?

3つの景色の中、全部に私しかいない?

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