アプリで転生勇者のやりなおし!

ちびまるフォイ

アプリ転生からはじまらない異世界生活

起きなさい……。


起きなさい……ニート。



「あ、いえ。ニートは名前じゃないんですけど」


「起きてるなら返事なさい。神の御前で失礼ですよ」


なぜか神様に逆ギレされた。


「あの俺は……」


「神様と話しているこの状況でなんとなーく察しはつくと思いますが、

 みんな大好き転生の時間ですよ」


「……皮肉がすごいんですが、なにかありましたか?」


「ほら、転生ですよ? 喜びなさいよ?」


なぜかこの神様はケンカ腰。


「わかってると思うけど、転生先は異世界でファンタジーな場所。

 で、ニートを丸裸で送るわけにもいかないから、これをどうぞ」


「スマホ……?」


神様に渡されたのは最新機種のスマートフォン。


「これが君の分身。君のステータス。考え方は好きでいい。

 とにかく、このスマホに入れたアプリで君の能力が変化する」


「な、なるほど!」


「ただし、容量はわざとしぼっているから、あれもこれも入れることはできないよ。

 あくまでも異世界生活を通して君は人間的に成長しなければいけない」


「わかりました」


さっそくスマホのストアで転生アプリをいろいろ調べてみる。

無数にあるアプリはどれも目移りしてしまう。


「うーーん。やっぱランキング上位のアプリをいれようか。

 いやいや、こっちの魔法詠唱ラーニングも捨てがたい……」


「はよせぇや」


じっくり小一時間悩んだ末にアプリを入れて、いざ異世界転生。

目が覚めると、アプリの効果はすぐに働いて道行く女性が俺を見るなり失神する。


「おおお! モテモテアプリ入れてよかった!」


・モテモテアプリ

・瞬間記憶アプリ

・異世界リテイカー  が入れたアプリ。


たった3つしかないのは、容量的に厳しいからだ。

瞬間記憶アプリで一度見た敵やら地図やらはすべて記憶できる。便利。


そして、ゴブリンを倒して、壮大な冒険の幕が上がる……!!




「……なんかちがうな」


冒険は始まらなかった。

最初の草原でゴブリン倒したところで、やり直したくなった。


異世界リテイカーのアプリを使って、ふたたび神のもとへと舞い戻る。


「え? どうして戻っちゃったの?」


「いや、このアプリはなんか地味っていうか……」


神がいるこの空間でしかストアにはアクセスできない。

『異世界リテイカー』のおかげで何度もやり直しはできるけど、

いちいち最初まで戻るのは正直めんどくさい。


「よし、これなら派手でアバンギャルドな異世界転生ができるぞ!」


・爆速魔法詠唱(自動翻訳付き)

・魔法フルコンプ

・異世界リテイカー


この3つのアプリを入れて再挑戦。

異世界リテイカーの容量がデカすぎて3つしか入れれないが、

魔法をめっちゃ早く出せて、コンプリートしたら楽しいに決まっている。



「キシャ―――!!」


「でたなゴブリン! 必殺、ホーリー・ナイトメア・ドーン!!」



アプリさまさまで、あっという間に究極魔法をさく裂させた。

ゴブリンは蒸発してかつてない爽快感が体をかけめぐる。


「……なんかちがう」


そして、また戻って来た。

神のもとでうんうんうなりながらストアを眺めている今現在。


「お前、何回ここに戻るわけ?」


「なかなかいいアプリに巡り合わないんですよ」


人気アプリを入れても面白くないし、

マイナーアプリ入れても動作面がどうしても心配になる。


もっとたくさんアプリが入れられれば、すべて解決できるのに。


「こ、これだ!!」


見つけたのは1つのアプリ。



・アプリクラウド



アプリをクラウド上でキープして、必要な時にアプリをダウンロードできる。

さっそくクラウド上にアプリをどんどん入れて準備を整えた。



「では、異世界いってきます!!」



3度目の転生を果たすやいなや、クラウドにとっておいたアプリを入れることに。

けれど、何度ログインを試みてもはじかれてしまう。


「おかしいな……パスワードとIDはあっているのに……」


クラウドアクセスで悪戦苦闘していると、町では超強力なゴブリンが暴れていた。


「ギャハハ! この爆速魔法詠唱ってのは最高だぜ!!

 人間ども! これまでレベル上げに殺された同族の恐ろしさを思い知れ!!」


聞き覚えのあるアプリの名前。

クラウド上に俺がキープしたアプリのひとつじゃないか。


「くそ! ID:ゴブリン パスワード:12345 だったのがまずかった!」


運悪くゴブリンに俺のクラウドにアクセスされてしまった。

アプリをダウンロードされて、超強いゴブリンが誕生してしまっている。

これではもう手の付けようがない。


「もうだめだ……今や俺はただの一般人。アプリがなければどうしようもない……」


「キシャシャ! お前だな、転生のたびにゴブリンぶっ殺した勇者は!

 積年のうらみ、今ここで晴らしてやる!!」


ゴブリンはアプリの力を使って魔法を唱えた。




『ストアに最新版があります。アップデートしてください』



アプリを更新できなければ、アプリを使うことはできない。

ストアではなくクラウドにアップしているので更新なんてできやしない。


ゴブリンはアプリ更新ができずにモタモタしていたので、勇者パンチで倒した。


「危なかった……アプリの更新されていたらどうなっていたか」


クラウドのパスワード等も書き換えたのでアクセスできるようになった。

これでやっと異世界生活を満喫することができるぞ。



女奴隷をはべらせてキャッキャウフフのハーレム生活か。

ギルドに通って、ゆるゆるな日常生活か。

仲間を集めて魔王を倒す意識高い異世界冒険か。



「ああ、これだけクラウドにアプリがあれば全部楽しめるはず!」


俺はクラウドにアクセスしてアプリをダウンロードした。






"通信量が100GBを超えました。次の転生まで通信は禁止されます"

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アプリで転生勇者のやりなおし! ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ