第9話『ベリーウェルダン』
ぽつねんと木の下に横たわる灰色の機体。
焦げてるし溶けてるはで、もうすぐにでも大地と一体化して素材からやり直したい気分である。
system
『全ラインチェック終了 イベント音声:グッドモーンニーングベトナァァアアム!』
聴覚素子に直結で響き渡るモーニングコールは、古来伝統のコール音の一つ。
無闇な明るさが戦場に荒む心に染みる一品だ。
「あー我思う故に我あり」
うむ。
思考中枢は正常稼働。BBに深刻な被害は無いようである。
あの爆圧から機体を守りきった電磁障壁に惜しみない賞賛を---詳細なレポートにして製造ラインにもメールで---送ろう。
「非常なソフトランディングに感謝致します。ハヴォックヤー。でも次回はもう少し柔らかにお願い致したい次第であります・・・」
かの偉大なハヴォック神に纏わる逸話の中では『背中とお腹が入れ替わり股関節が3600度回転させながら大地を突き抜けるとそこは天空であり落下を終えれば無傷であった』などというものもあるが。
今回は機体が保っただけでめっけ物であろう。
「損害評価開始。ジャイロ・スタビライザー正常値に復帰。電波スタビライザーもシステム上はOK」
地雷直撃から続いた混乱の極地より、遂に復帰する。周囲の様子が鮮明になり、なんと上下の区別すら付くようになったのだ!
素晴らしい進歩である。
「えーとライン関係はどうだ。全システムチェック終了。うわ・・・」
駆動系:85%
推力:81%
通信・センサー系:66%
電源系:92%
電磁障壁発生器:52%
対レーザー・ビームコーティング:0%
装甲:測定不能
BBダウンからこっち、電源は非常用に切り替わり、最低限のチェックモードで起動している。
「機体が冷めるまでは放熱を誤魔化せるかな・・・? 思いの外元気だけど、生きてるかどうかが微妙過ぎる・・・」
現在の蓄電量は乏しいが、放熱を抑えるため炉心はアイドリング状態に留める。
センサーも電磁障壁発生器も装甲も、外に出ていあた部分はプラズマでこんがり焼けてしまっている。
だが強火で短時間カリッと焼かれたせいか、内部的な被害は最悪ではない。
機体構造系も、強すぎる慣性で関節が結構歪んだ程度である。
「耐ショック体制にも間に合わなかったからなあ・・・。まあなんとか、あと一機動ぐらいはできる・・・のかなあ。他はえーと」
LBR-無限-CRe参拾弐(外装ビームライフル)溶けた。
BS-CZ-bbM3(実体弾拳銃)溶けた。
MLZ-pAs-cl.0239(内蔵中口径レーザー)2門中1門溶けた。
ZZ-s12虎鉄(ビームカッター)2本健在。
多用途ランチャー2門健在。
G-101型擲弾10。
AM/B-Sp-m15 レーザー・ビーム散乱弾10。
CL-20系成形炸薬20kg。
よかった。手に入れるのに苦労した虎鉄は脇格納部で健在である。
いや待て良くない。
まともな武器はその虎徹と内臓レーザー1門だけになっている。
あとは当て辛い擲弾と、機体建造以来ほとんど複合装甲の一部として扱っている成形炸薬ぐらいである。
「ふぅ。後はどうしたものだかなあ・・・。残骸のフリして情報を待つか。変な場所に落ちたせいで動くと即察知されそうだしなあ・・・。頑張れ我が通信ポッド。え~現在機体中破、正面からの強行偵察には支障あり。戦術の変更を求む」
なんとか機体システムダウン直前に山積みになった問題点から這い出そうと試みる。
相変わらずの断続的なEMP合戦で通信が困難な状態であり、自身はデカイ爆心から地面の抉れで付いた矢印の先にある機体の残骸である。
今はスクラップ扱いで敵機から放置されていても、変な動きをすれば一発で真・スクラップにランクアップしてしまう。
まずは密かにばら撒いていた通信ポッドを動かして、詳しい情勢を探る。
本体のアンテナも出せるが無駄に注意を引きたくはない。
上部と連絡が取れ方針が決まるまで、これ以上の動きはしないことにして、横たわったまま連絡が来るのをじっと待つことにする。
今は外に飛ばした通信ポッド頼りである・・・待つこと暫し。
「来た」
戦場の隅であることも幸いし妨害が薄く、通信ラインは簡単に繋がった。
一番近い通信ポッドから、木の下で地面にめり込んだ残骸チックな機体の残り少ない受光部に、圧縮レーザー通信が届く。
直属の上役である戦術機、楊貴妃の姐さんからである。
「えーなになに
『HQの当たりを付けた、近くに居るのがお前だけなので偵察せよ。できれば攻撃もせよ。 TYV-10 楊貴妃』
あ、姐さん・・・軽く言いなさって下さりまして」
最新型とはいえ中破して戦場に孤立した偵察機に、何処まで要求するのか・・・。
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