ヨルノコエ投稿作品

九条飄人

自動販売機の水

街には多くの自動販売機がある。


大抵は有名メーカーのものだけど、たまにやたらマイナーで聞いたことの無いようなメーカーのものや、そもそもノーメーカーみたいな自販機もたまに見かける。


なんとなく、ノーメーカーの自販機を見つけると、嬉しくならない?


中身も珍しい飲み物や、見慣れないデザインのものがあるし。


最近、家から少し離れたところに新しい自販機が設置されててね。

見たことが無いメーカーのなんだよ。


ついつい気になってラインナップを見てみると…


何とも微妙なものばかり。


青汁ピーマン風味

トロッと濃厚脂スープ

苺シロップ風苺ジュース

農薬畑の野菜ジュース

玉ねぎ剥いちゃいマシタ

ニンニクソーダ

キノコ100%ジュース


…微妙を通り越してゲテモノだ。


マイナーメーカーだから出来る冒険心溢れる品々だね。

でも売れ行きは良くないだろうなぁ。


そんな中。


唯一、まともな品があった。


「水」


商品名はそのまんま。


デザインも水が入っているだろう無難な作り。


せっかく、少し歩いて来たからとりあえず買ったよ。


もちろん「水」だけどね。


喉も渇いていたし水なら美味しく飲める。

それに、このラインナップならこれしか選べないし。


価格も100円。

良心的な価格だ。


ガコンっと落下音を鳴らして出てきた水を飲んでみた。

キンキンに冷えたその水は、予想に反して非常に美味しい。


普段、ミネラルウォーターなんか飲んでも

「水ってこんなもんだよね」

としか思わないのに。


体に浸透するのが解る…というか。


つい、持ち帰り用まで買ってしまった。


家に帰り、冷蔵庫に買ってきた水を入れる。


ぬるい水ってあまり、美味しくないじゃない?


そして風呂上がり。


いつもの事だけど喉が渇く。


いつもなら冷たいビールで晩酌なんだけど、

今日飲んだ水があまりに美味しかったから休肝日にしよう!と水を飲んだ。


風呂上がりのその水は格別に美味しい。


水の産地が知りたくなってラベルを見たんだけど何も書いていない。

ただ「水」って書いてあってね。


美味しいんだし自販機で売られているくらいだから大丈夫なはず。

水だし細かい事は気にしなかった。


いつも通り、テレビを見て寝て。


朝、目覚めると喉がカラカラ。


これはいつもの事。


口をゆすいで冷蔵庫の牛乳を飲んで仕事に行って。


仕事場でも喉が乾くから自販機でいつものコーヒーを買った。

飲みながら仕事…って喉の乾きが癒えない。


自分が飲みたいのはこれではない、と気付いたんだ。


水は身体に良いって聞くし、また自販機で水を買った。


飲みながら仕事…仕事……


ダメだ。


喉の渇きが癒えない。


かれこれ水は3本も飲んでる。


この時点で気付いたよ。


俺が飲みたいのはこの水ではないからだって事に。


猛烈な喉の渇きを我慢して仕事を終えた。

そして、あの自販機へ真っ直ぐ向かった。


「水」はあった。


但し価格が変わってる。


120円に。


今ではこれが普通の価格だから戻したのかな?

程度に考えて3本買った。

今用、風呂上がり用、寝起き用。


これだけ美味い水なら買うのも有り。

そう思いながら最初の1本を飲み干す。


ダメだ…!

無意識に2本目も飲んでしまった!


半分、取っといて風呂上がりに飲み……足らない。

水が足らないんだ。

仕方ないから寝起き用のを飲む。


求めていたものを摂取した満足感に喜びを感じながら寝た。

明日もまた、仕事帰りに買って帰ろう。

…とか思っていたよ。


でも深夜に目覚めた。


時間は3時少し過ぎ。


喉が渇いて目が冷めてしまった。


仕方無く水道水を飲む。


飲む…飲む………


満たされない渇き。


今から買いに行くのは面倒だ。

でも寝付けないくらいの渇き。


俺は仕方なく、サンダルを履き買いに行った。

通販無いかな…とか考えながら。


自販機は夜にこうこうと光っていた。


「水」のボタンを見て売り切れが光っていない事に安心する。

200円をを入れたがボタンが光らないし押しても反応しない。


よく見ると価格が300円になっていた!

数時間前が120円なのに300円に値上げ?!


でも、我慢できない。


1200円あったから4本買って帰った。


アコギな商売してるよな。


……


………


俺は今、消費者金融に多額の借金がある。


仕事には何とか通っている。


「水」の価格は今、9980円だ…


原産地も書かれていない、ノーメーカーの水。


もし、見かけたら絶対に飲むなよ。


たぶん、これには中毒になる何かが入ってる。


成分分析を依頼した会社からは音沙汰がなくなり、会社の存在自体が消えた。


俺はたぶん、この「水」から逃れられない。


だから、この話を聞いたお前らは飲むな。


これは俺が出来る唯一の忠告だ……


今日も「水」が美味い。

美味過ぎる。


飲みたくないのに美味いんだ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る